浅草〜向島 カレー抄
書肆スーベニアが加入している東京都古書籍商業協同組合(東京古書組合)の機関誌『古書月報』2020年8月号に「私とカレー」というテーマで拙文を載せていただきました。
この冊子は組合員以外の方には読んでいただくことができないので、noteで公開することにします。以下、掲載文。
『浅草〜向島 カレー抄』
浅草・ひさご通りを抜け、千束通りから路地に入ったところの食堂「うんすけ」は、大分の小鹿田焼に盛られた牛すじカレー「民藝咖哩」を看板メニューにしている。うま味が強いのに素朴な味わいにまとまっていて毎日でも食べられる。素材の産地や調理の手間暇をうるさく言わないのは、民藝運動の思想に則しているからだろう。
浅草から言問橋を渡り、水戸街道を曳舟方面へ進むとかつての赤線地帯、鳩の街通り商店街がある。商店街に入ってすぐの「ジバン」は、近年はどこの街でも見かけるインド近隣国の方が営むインドカレー店だが、ここは80年前に始まったかつての特殊飲食店街。微かに当時の色香を残した街にスパイスの香りを漂わせるこの店は、市井の歴史をライブで感じさせてくれる。
向島・桜橋通りの保育園の角を入ると、営業中のノボリが出ているがどう見てもただの民家という蕎麦屋がある。玄関を開けてもやはり普通の家の玄関で、勝手に他人の家にあがる後ろめたさを感じつつ靴を脱ぐ。客席はやはり普通の居間の座布団で、皆でテーブルを囲む大家族スタイルだ。蕎麦を頼めばキッチンに並べられた惣菜類も好きに取り分けて食べてよく、100円足せばカレーもいただける。このカレーが美味い。具は形がなくなるまで煮込まれていて、はじめは甘味が強く後から結構な辛さがやってくる。
どちらも週末にわざわざ行くような店ではなく普段から通いたいような店だが、コロナが落ち着いて機会があればお立ち寄りいただきたい。
ところで、妻が作るカレーは具がデカい。シチューもやたら具がデカい。いつも直径4cmほどのジャガイモやニンジンが皿の上で構えている。はじめはカルチャーショックだったものの、今では自分が料理番のときも自然と妻のサイズに寄せるようなった。一緒になってまだ2年だが、我が家のカレーはやたら具がデカい。ということになっている。
以上。