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主力製品が売れなくなっても大丈夫? サービス群が持続的競争優位を生むかもしれない話

モノからコトへ、サービス・ドミナント・ロジック、OMO

モノからコトへという概念があります。

単純にモノを売るよりサービス提供の方が儲かりそうという発想です。しかしもう少し深く考えると、ユーザ中心に考えたときに、モノというのは狭い範囲の問題しか解決できない。そのため、ユーザのジャーニー全体をカバーするようなソリューション群 (多くはサービス) をラインナップすることで、ユーザにより多くの価値を届けようという話になってきます。「モノも含めた全てのソリューションは顧客が享受した時点で価値が決まる」という意味でサービス・ドミナント・ロジックの話でもありますし、「ユーザから見たときにリアルとバーチャルの体験が一体化する」という観点でOMO (Online merges Offline) の話でもあります。

さて、ここまでは問題ないと思います。素晴らしいコンセプトであり、これに伴い、個社で実現できないときにエコシステムを形成するという現代的なアプローチも含まれるでしょう。ただし、今日論じたいのはサービス・ドミナント・ロジックやOMOそのものに関してではなく、これらに関わる競争優位に関してです。


補完財

ところで、補完財という概念があります。

ある製品やサービスに対して、同時に補完的に使われる製品やサービスです。例えばバットとボールとか、紙とペンとか、そういう関係を指します。
このとき、ユーザのジャーニーに沿ったOMO的なソリューション群を想像すると、(「同時」という縛りを少し緩めてやれば) それらはしばしば補完財の関係だということが分かります。野球をするときにスポーツ保険に入る、ノートがなくならないように定期購入サービスに申し込むといったケースだと思ってください。

ビジネス的に補完財のいいところは、もちろん両方売れることです。ある顧客のある問題を解決するのに、複数の製品やサービスが必要だとすれば、その全てを総取りしたいというのはビジネスパーソンにとって自然な発想です。

しかしここでは、補完財の別の利点を述べてみようと思います。それは、ある製品・サービスで強力なポジションを築き上げれば、個々の補完財のプロモーションは容易だということです。

例えばペンに関して、ロイヤリティの高い顧客が多数いるような強力なブランドを確立したとしましょう。この場合、補完財であるノートで新製品を出したときには、新たに精力的なプロモーションをする必要はありません。ペンのブランドに乗るだけでいいからです。そのブランドを棄損しない限りにおいて、補完財の新製品投入は他社に比べ圧倒的に有利な位置にあります。


補完財はお互いに新製品を助けていく

さて材料が出揃いました。ここからが本題になります。

もししばらくして、肝心のペンの方で競争優位が薄れてきたとしましょう。このとき、普通なら激烈な競争環境に巻き込まれます。しかし、そのときノートの方でブランド力を担保していたら、今度はペンの新製品がノートのブランド力に乗ることでビジネスを有利に進められます。これが本稿で述べようとしている、OMOとビジネスモデルの接続です。

これまでOMOは、顧客体験を最大化するための手段として議論されてきました。もちろんそれは全面的に正解です。それを本稿では、持続的な競争優位に転用する話をしています。つまり、OMOを形成するソリューション群は、時間の経過とともに各要素が入れ替わっていきますが、OMOとして顧客のジャーニーをがっちり押さえている限りにおいて、その新しい要素はそれぞれ圧倒的な優位性をもって市場投入できますし、その新製品・サービスがトータルの顧客体験を高められれば、その次の要素の入れ替えの際に今度はアシストする側に回れるという構図です。


OMOとブランディング

これを、顧客体験だからプラットフォームの議論だと解釈するのは短絡です。プラットフォームが単独で高められる顧客体験には限界がありますし、この話は (プラットフォームの対義語としての) コンテンツが果たす役割を中心に述べているからです。むしろルイ・ヴィトンのようなラグジュアリーブランドに近い考え方かもしれません。ITの近くでいえば、かつてのソニーもこれに近かったと思いますし、Appleもそういう面があります。このエコシステムに浸かることで高い顧客体験が維持され、新製品はこれまで築いた世界観を崩すことなく気持ちよく取り入れられる。要素は入れ替わりつつも全体観が維持された、イノベーションとブランディングが融合したビジネスモデルです。

実現に向けてもっとも重要な要素は何でしょうか。それはブランディングだと思います。何もハイブランドだけがブランディングではありません。そうではなくて、変わることのないシンプルで特徴のあるメッセージが、ユーザの中で意味に転化する、そこに雑音を入れないような、穏やかで絶え間ない働きかけのことをここではブランディングと言っています。投入されるソリューションは、ユーザに価値を届けると同時に、統一したイメージを備えています。体験を高めるのはもちろんですが、その方向に一貫性があり、ユーザはこのブランドが自分にとって持つ意味が強まると感じないといけません。そういうソリューション群をデザインする必要があるのです。単純にサービス・ドミナント・ロジックやOMOを考えるなら、多くの人の体験を最大化できる全ての手段を取り揃えるべきでしょう。しかし持続的な競争優位への貢献を考えたとき、価値観に沿わない選択肢は外してでもブランディングを重視し、体験価値との両立を目指すべきではないでしょうか。


OMOは長期的な競争優位を目指せるか

本稿は、もしかすると (もしかしなくても) BtoCの世界では当たり前の話なのかもしれません。一方BtoBの世界では、圧倒的な製品が好評を博しているにも関わらず、製品の世代交代のときに競合に劣後し、シェアを大きく落とす例がよくあります。この問題に対して、囲い込みという提供者本位の視点でサービス化が議論に挙がりつつあるというのが現在の状況でしょう。しかも囲い込みは主力製品の販売強化という位置付けが多く、プロダクトライフサイクルが終焉に向かった場合には周辺サービスごと撤退するという構想だと思います。

それに対し、現在に注目した競争力だけではなく、製品を補完するサービスをブランディングへと繋げ、短期のロックインとは異なる、新製品の投入を念頭に置いた長期の競争優位を築けないか、という試論でした。

筆者はこれまで持続的競争優位は存在しないという前提で、さまざまな施策を考えてきました。本件は珍しく、持続性を念頭に置いています。これが最終的にBtoB版Appleを目指すような当たり前のことを言っているのか、何か新しいものを生み出せるのか、もう少し考察を続けてみたいと思います。


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