プラットフォームとは何か? デジタルビジネスモデルの類型
プラットフォームとは何か
アナログなビジネスを営んでいる企業で「デジタルビジネスモデルへの変革」に言及すると、なぜかプラットフォームの議論になってしまうことが多いと思います。製品とサービスの関係が様々に存在することは以前に論じましたので、ここではそもそもプラットフォームとは何かを考えてみましょう。
platformとは、古フランス語の “plate-forme” が元になっていて、 “plate”(平らな) “forme” (形)、少し高くなった地形や台を意味していたようです。そこから電車の乗り場や演説の演台など指すようになりました。厚底の靴もプラットフォームと呼びますが、確かに高台です。
こういった非常に幅広いニュアンスを持っていますので、一口に “プラットフォーム構築” “プラットフォームビジネス” と言っても、その意味するところは様々です。PaaS (Platform as a Service) はクラウドで提供されるOSやミドルウェアを差しますが、Amazonをプラットフォームと呼ぶときは売り手と買い手の出会う場になります。
Wikipediaの「プラットフォーム(曖昧さ回避)」ページを参考に、IT系に近いものを抜き出すとこのような感じです。
OSやミドルウェアなど、ソフトウェアが動く土台となる層
売り手と買い手を結び付けるツーサイドプラットフォーム (two-sided platform)
ゲーム機に代表される、エコシステムと囲い込みの中心
様々な技術が集約されており、検索と実行を容易にする「テクノロジープラットフォーム」
複数の製品で共有される基盤の部分
類似の複数の製品を提供する「プラットフォーム事業」
他産業を含めると更に増えますので、既存事業がITを織り込むDXという活動の中で、プラットフォームという言葉が混乱して用いられるのは仕方ないと思われます。
ツーサイドプラットフォーム
さてその中でも、ビジネスモデルという文脈では最も語られることの多い “ツーサイドプラットフォーム” を考えてみたいと思います。
ツーサイドプラットフォームとは、売り手の側と買い手の側 (ツーサイド) が効率的に出会える場です。例えば売り手と買い手が集まる魚市場は、アナログなツーサイドプラットフォームと言えるでしょう。楽天が “市場” と名乗っているのも頷けます。
一般に、プラットフォームにはネットワーク効果が働くと言われています。人が集まれば集まるほど、その場が魅力的になるという意味です。数軒しか出店していない市場より、何百軒も集まっている市場に人が集まるのは道理でしょう。出店側にとっては、ライバルと近場で鎬を削るデメリットもありますが、多くの顧客が集まるメリットの方が大きいときと考えれば集まる動機になります。その結果として、集まれば集まるほど魅力が増していき、プラットフォームは自然と独り勝ちする傾向がある、というものです。
競争戦略の文脈では、ネットワーク効果によって顧客を集める力が増し、かつ参入障壁が上がりますので、優秀なビジネスモデルとされています。
もちろん、人が多く集まると悪いこともする人も増えますし、玉石混交の中から品物を選ぶ労力も増していきます。したがって、実は必ずしも大きなプラットフォームが万能という訳ではありません。
それだけではなく、マルチホーミングと呼ばれるように、店側も客側も同時に複数のプラットフォームを利用することがあります。物理的な市場を掛け持ちするのは大変ですが、デジタルならそこまでの負担ではないからです。ですので共存が起こり、独り勝ちにならないことがあります。また同じ理由で、新興プラットフォームへの移動が容易なことも見逃せません。
また、例えばTwitter (現X) とInstagramは、言葉で説明すれば似たような機能ですが、実際の雰囲気は全く異なります。このように、一見すると似たようなサービスでも、出店者や顧客の性質が異なることで、住み分けが起こるのもプラットフォームが共存が起こるケースでしょう。
したがって、プラットフォームビジネスは、確かにいま大きな存在感を示していますが、思ったより完成されたビジネスモデルでもありませんし、持続的競争優位も保証されていないことには留意しておく必要があります。それでもなお、AmazonやGoogleの隆盛を思えば、プラットフォーマーに魅力を感じるのは自然です。
デジタル・ビジネスモデル・フレームワーク
さて、そんなプラットフォームに関わるビジネスには様々な解説書がありますが、『デジタル・ビジネスモデル 次世代企業になるための6つの問い』の示唆に富んでいますので紹介しようと思います。
慣れるまでは横軸の定義が分かりづらいのですが、「開かれた、コントロールできないエコシステム」を右側に、「できるだけコントロールしたいエコシステム=バリューチェーン」を左側に置いています。右に行くということは、コントロールをある程度まで放棄し第三者が活発に参入することを是とするということです。デジタルらしいオープンな思想と言えるでしょう。
縦軸は、顧客理解の度合い、顧客接点の多さです。
エコシステムドライバー
このとき、右上はエコシステムドライバーと名付けられています。原書ではAmazonに代表される業態を例に挙げていますが、ここをプラットフォーマーと呼ばないところに理解の深さが表れています。エコシステムドライバーは顧客のとっての目的地であり、最高の顧客体験が提供されねばなりません。競合を締め出すようでは、顧客は満足しないでしょう。そんなオープンな場を提供し、その場から利益を得るのが特徴です。
オムニチャネル
左上はオムニチャネルです。エコシステムドライバーとの違いは、顧客との関係性を可能な限り管理しようとしていることです。最高の顧客体験を目指すという意味では同じですが、よりデザインされていると言えるかもしれません。銀行や小売などが挙げられており、バリューチェーンの統合と支配が重要な競争力となります。個人的には、Appleはオムニチャネルを志向しつつ、App Storeで審査を通じて限定的にエコシステムに門戸を開き、少し右側に寄せているというイメージを持っています。
モジュラープロデューサー
右下はモジュラープロデューサーです。エコシステム内で縦横無尽に利用されますが、顧客との接点は限定的です。API経由で自由に呼び出される、まさにデジタルなビジネスモデルでしょう。例としては決済機能が挙げられています。PayPayは基本的にこの象限ですが、少しでも顧客接点を持とうと上方向への施策を打っていると理解しています。
サプライヤー
この本は、みんなプラットフォーマーを目指そうという単純なメッセージではなく、企業特性ややりたいことに応じて目指す場所を変えようというトーンで書かれています。ただしサプライヤーに対してのみ否定的です。代理店経由の保険会社や小売店経由の家電メーカーが挙げられていますが、他の企業を通じて販売しつつもエコシステム内で自由に動けないこのポジションは、将来的に影響力が低下すると論じられています。コアスキルに低コスト製造と漸進的なイノベーションが挙げられているのですが、確かにこれだけでは今後は難しいでしょう。
そういえば筆者は、デジタルの特徴として「つながる」「データを使う」「オープン」「学び、試す」の4つを挙げています。その観点からすると、横軸は右に行くほどオープンで業界が複雑に繋がっており、縦軸は上に行くほど顧客と繋がりデータを使っていると言えます*。
自社に合うデジタルビジネスモデルを考える
繰り返しになりますが、重要なことは、必ずしも全てを取り入れ “〇〇界のAmazon” を目指す必要はないということです。ロイヤルユーザーをターゲットにするなら、エコシステムドライバーよりオムニチャネルの方が向いているかもしれません。ユニークな機能を幅広く提供したいなら、モジュラープロデューサーの方が制約が少なく自由にデザインできます。
本稿で述べたかったことは、デジタルビジネス=プラットフォーマーという構図は、デジタルがビジネスに及ぼす影響の全体像が見えていない、短絡的な議論だということです。デジタルは、確かにこれまでにない特徴を有するため、新たなビジネス類型を学ぶ必要があります。しかし一方で、Product-Service Systemsや補完財、アンゾフマトリックスといった、デジタルを包含する大きな概念から発想することも非常に重要と考えています。
*本書も筆者のデジタルに関する考察に影響を与えていますので、整合するのは当たり前です