恩返しと恩送り
一回しか聞かなかったのに、不思議なことにその言葉をずっと覚えていることがあります。皆さんもありませんか?
私が覚えている言葉は…
「どんな小さなものでも、いただいたご恩は一生忘れてはいけないよ」
です。
「恩返し」には、2通りあると思います。その人に直接返すことのできるものとこれからの人に繫いでいくもの。どちらにせよ「いただいたご恩を生涯忘れてはならない」ことに変わりはありません。
1)心に刻まれる言葉
「どんな小さなものでも、いただいたご恩は一生忘れてはいけないよ」
この言葉は、20年以上前、創立者である岡崎功先生の出張に同行していた時に言われたものでした。
講義や訓話ではなくて、ふとした時に言われた言葉…
それも一回だけ…
その言葉が、ずっと記憶に刻まれています。
不思議です…
最近では「心に刺さる言葉」とも言いますね。
「パワーワード」とも…
私は「心に刻まれる言葉」という表現がピッタリだと思っています。
刻石流水(こくせきりゅうすい)です。
もともとは、仏教経典にあった『懸情流水 受恩刻石』(情を懸けしは、水に流し、恩を受けしは、石に刻むべし)から来ている言葉だそうです。
心に刻まれる言葉は、その人の心の糧となり、その人の人生に大きな影響を与えるものとなります。
「どんな小さなものでも、いただいたご恩は一生忘れてはいけないよ」
私はこの言葉を大切にしています。
2)もう一つの「恩返し」のことば
「恩返し」について高校時代の思い出を振り返り、次のような話を、以前生徒にしたことがあります。
「恩返し」という心は、自分の中でとても大切にしていることです。
実はもう一つ心に刻まれている「恩返し」の言葉があります。
それは高校時代に先輩から言われた言葉…
「ありがたいと思ったら、俺にはいいから後輩に対してお前が同じようにしてやれ」というものです。
一つ上の先輩から食事をご馳走になり、お礼を言った時に言われた言葉でした。
自分には返さなくていいから、次の人にしてあげなさいと…
高校生なのに、そう言える先輩はカッコ良かった!
その人に返すことのできない「恩」は、次の世代の人に送ってあげることができます。それを「恩送り」というそうです。
昨年、父が亡くなり一年が経ちました。いろいろな思い出が甦りますが、直接恩返しすることはもうできません。これまでお世話になった方の中にも天に帰られた方があります。
この直接返すことのできない恩は、これからの人に繋げるものとして、できる限りのことをさせていただこうと思います。
3)「恩」=「恵」「慈しみ」
恩は本来、「恵(めぐみ)」「慈しみ」と同じ意味です。
もともとは神の恵み(愛)や仏の恵み(慈)を指したそうで、後に君主や親から与えられたものも「恩」と言うようになっていきました。
『日本書紀』などの日本の古典に出てくる「恩」は「めぐみ」「みいつくしみ」とよまれています。
「恵(めぐみ)」は「(草木)が芽ぐむ」の名詞形と言われます。
長い冬に眠っていた草木の生命力が、あたたかな春の光に育まれて目覚めることを意味しました。
天地のエネルギーが生命力となって与えられることを「芽ぐむ」といい、天地の恵み、慈しみが「恩」ということになります。
「芽ぐむ」=「恵」=「恩」
「生命の発展を助けること=恩を施すこと、恩を受けること」
だから、自分の成長を助けてくれる恵みや慈しみを与えてくれる人を「恩人」「恩師」「親恩(しんおん)」と表現します。
まとめ
「どんな小さなものでも、いただいたご恩は一生忘れてはいけないよ」
「何かしてもらってありがたいと思ったら、次の世代に対して同じようにしてあげなさい」
「恩返し」と「恩送り」を一生忘れない生き方にしていくことは、美しい生き方ではないでしょうか。常にそうありたいと思います。