映画感想『ハッピーフライト』
日本人の良い面と悪い面を詰め込んだ映画
何回か観ていますが、僕の中ではこれにつきます。
日本人と言うのは仕事に真面目で厳しく、仕事のため、お客様のためという名目ならば、人権なんてものはいとも簡単に破壊し、嫌な思いを必要なものとして受け入れる精神を持っています。
この映画の登場人物たちはまさにそうで、序盤は新人がベテランたちにいじめられる(いじめと表現するのは適切ではないかもしれませんが)場面ばかりで、しかもそれがいいことであるような雰囲気を醸し出すので、正直フラストレーションが溜まります。コメディタッチで描かれるため、楽しく見れなくもないですが、新人の整備士を罵倒する先輩を筆頭に、新人CA、新人パイロットへの風当たりは強く、気分が悪くなることがしばしばでした。
中でも、新人整備士の扱いには今でも思い出して苛立ちます。元はと言えば飛行機が放つ轟音のせいで指示の伝達がうまくいかず、新人整備士は誤った判断をしてしまったのに、それを百パーセント新人のせいにして怒鳴り散らかす上司は胸糞です。それだけならともかく、何か言いたげな新人に何も言わせず、なんなら暴力も振るいますし、結果的には上司が正しかったみたいな雰囲気で落ち着いてしまって、もう、最悪です。新人だろうが何だろうが意見を言う権利はありますし、それがどれだけ的外れだとしても、怒りではなく対話という形で上司は新人に向き合うべきです。意見を乱暴に押し付けてはいけません。そうですよね?
とはいえ後半は、日本人の仕事気質の良い面が強調されていきます。離陸した飛行機に緊急事態が起き、(この原因も胸糞ですけどね。飛行機の航路に鳥が集まるのを防ぐために、空砲を撃つおじさんがいるのですが、そのおじさんを愛鳥保護団体が邪魔し、鳥が飛行機のなにやら大事なところに当たって壊れてしまったことが原因です)、それを全員で一致団結して乗り越えていくのです。
アメリカ映画のように、ヤバいヤバいと叫ぶことはありません。冷静に、できうる最善を模索しながら、一人一人が自分に与えられた仕事を、歯車の一部になったかのように真っ当にこなす姿は、まさに日本人の職人気質と団結力。これは仕事に人生をかけている日本人だからこそできる一芸でしょう。僕は中でも、地上にいて台風の動きを予測したり、乗客の寝る場所などを確保するオペレーションコントロールセンターの皆さんが好きでした。パソコン操作では何の役にも立たないおじさんがアナログになった瞬間に覚醒して現場の指揮をとる展開はベタだけれども燃えましたし、年齢性別の枠を取っ払った団結力が一番よく出ていたので、きっと僕がこの場にいたとしたら、飛行機が無事に緊急着陸をして喜び合った時に、「この職場で働けて良かった!」と思うだろうな、と直感を抱きました。
やっぱり僕も日本人の端くれなので、全員で懸命に仕事に励むことを美談として捉えがちな性格を持っています。後半はもう本当にその部分が僕の琴線に刺さりまくり、だから僕は今作を繰り返し見てしまうんだなとようやくわかりました。
まとめ
パワハラ、セクハラ、モラハラ、絶対にダメです。
でも、仕事のためだったら仕方がないよね、という恐ろしい映画です。
もしかしたら、この先の時代では観ることを禁じられる映画になる危険性もはらんでいます。ネットフリックスから追い出されるかもしれません。
ただ、仕事には常に辛い面があり、トラブルもあり、仕事をしている以上、それらを解決しないといけない瞬間があることも、残念ながら事実です。時間通りに電車がくるだとか、店員さんが皆親切だとか、清潔感が保たれているとか、日本の良さとして語られる事柄には、日本人の狂気ともいえる仕事への熱量があるのかもしれませんね。
日本で働くことを考えている海外の方に見て欲しい作品。