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映画感想『世界の終わりから』

やりたいことに共感

僕も年を取って現実が見えてきたのか、あるいは世界が本当に暗い道へと歩みを進めているのか、最近は世の中の善意というものを信じられなくなってきています。

電車で席を譲る場面があったとしても、それを単なる優しさとしてではなく、お年寄りに席を譲るべきだという義務感から動いているようにしか見えません。(これは単にひねくれているだけかも)

別の例を挙げるなら、戦争は嫌だという国民の声がある中で、国民のためだと銘打って戦争を続ける政府は、一体何なのでしょうか。そこに善意など皆無です。

この世界は守る価値があるのか。今作で何度も強調されるテーマは、まさに僕が疑問に思っていたことでした。

僕は、考えれば考えるほど、この世界(=人間の世界という解釈)に守るべき価値はないと思ってしまいます。人間が集まるとすぐに食物を乱獲し、動物を家畜化し、戦争を起こし、繁殖をします。階級、人種、性別で差別がおき、地球環境はどんどんと悪化していきます。

なので、人の思いが集まって歴史を作る。その結果、この世界は守れなかったという今作の結末は、容赦ないなとは思いつつ、とても納得がいきました。無条件に人間が繁栄している世界がいいものだ、と考えていない人がいるんだと知り、おこがましいですが仲間意識を感じました。

じゃあなんでさっさと核をぶっ放して死なないのか、じゃあどうして今すぐ命を絶ってこの世界を美しいものにするのに一役買わないのか、という話ですよね。それは僕や、今作の監督が人間だからです。

人間なんていなくていい、と偉そうに語る癖に、やっぱり自分の生活が大切なのです。人間ですから。なんだかんだこの世界が続いていくという楽観視があるのです。人間ですから。刻み込まれた人間としてのプライドが、「希望」と言ってしまっていいのですかね、世代を超えた人間の繋がりに価値を見出します。

今は無理でも、きっと未来の誰かが。過去の出来事が今に繋がり、そして未来に繋がり、いい未来がある。未来人が過去にきて世界を救い、今を助け出してくれる、などなど。

どこまでいっても人間の僕たちは、今の世界は見捨てても、人間の世界そのものを見捨てることはできないのかもしれません。

あくまで全て僕の勝手な意見ですが、その部分でも、今作は未来に希望を僅かに残す作りになっていて、共感できました。

この世界に価値はない、でも価値をどこかで見出したい。

わがままな意見ですね。

魅せ方に不満

さて、僕なりに、今作のやりたいことの部分は納得がいきました。しかし、映画として心から楽しめなかったのが正直なところです。

説明が多いのは言うまでもなく、その説明も、キャラクターが考えて喋っているのではなく、制作陣が作る展開によって台詞が生まれているぎこちなさがずっとあり、すごく気になりました。ここでこの設定は説明しておきたいな、だから主人公にはこの質問をさせなきゃ、という裏側を想像してしまう感じです。僕は恥ずかしながら小説を書くんですけど、僕も本当に設定が台詞を喋ってしまうことがよくあって、映画を観ながら、「うわぁ、僕みたいな台詞だ」とため息をついてしまいました。

台詞と大いに通ずるのですが、キャラクター同士の関わり合いも嫌でした。運命論が語られている作品でもあるので、あえてそうしている可能性もありますが、何もかもが作られたもの、という印象です。主人公と足の悪い同級生との関わり合いなんてまさにそれですよ。「軽口を叩きながらも主人公を気遣う同級生」「主人公に恋をし出す同級生」「自分だけは主人公の味方だと言う同級生」というシーンごとのテンプレートをコピペして貼ったような、独自性がなくぎこちない描写ばかりで、見ていて恥ずかしくなってしまう程でした。

要するに

なんとなくですが、小説の方が似合っている気がします。もし同じ台詞や場面を小説で描いたならもう少し違和感なく進めた気がしますし、テーマ性に関してはがっつり小説という媒体で描けるものですから(僕自身がチャレンジしているように)、万が一小説版が出たとしたら読んでみたいと強く思う作品でした。

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