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映画感想『ある閉ざされた雪の山荘で』
ネタバレ気にせず
1 入れ子構造
一体どこに現実があるのか。それが全くわからない作りになっているのが面白かったです。
①閉ざされた雪の山荘におり、そこで事件が起きたという体でオーディションが開かれる
②そこで本当に殺人事件が起きてしまう
③しかし実際は、殺人事件に見せかけた演技を行い、殺人事件を作り上げる
という、少なくとも三つの構造があり、さらに、見ている限り、もっと構造が隠されているような気もして、どこにも終わりがないような、永遠に自分が映る鏡を見ているかのような気分になり、ゾクゾクとした面白さがありました。
2 舞台役者たち
入れ子構造をさらに魅力的にしていたのは、主人公たち七人が全員舞台役者だということです。
山荘の中で演技を求められ、殺人を犯すために演技を求められ、殺人を隠すためにも演技を求められ、全員が演技をしているので、素の部分が現れても、どこか演技的に見えました。素の部分が出ていたのかも確証が持てません。もちろんそれは決して悪い意味ではなく、入れ子構造の複雑さや面白みが、彼らが役者だという前提によって、更なる不気味さというか、見ている僕たちを惑わせる力を増加させていたということです。
本当は最初から最後まで舞台作品だったのではないか。久我は本当は最初から犯人を知っていて、犯人を暴く探偵役として、登場した時からずっと演じているのではないか、という懐疑の念が溢れ出ます。
構造と舞台役者の設定が、作品の基本である雰囲気を作り出していました。若い男女が山荘で集まるので、最初は恋愛リアリティーのような雰囲気すらあってどうなることかと思いきや、それらも全て構造の一つのような気もします。
3 ストーリー自体は
ストーリーや動機は可もなく不可もなくといった感じで、謎を一緒に追いかけるタイプではないからかもしれませんが、目新しさや特異性は見つけられませんでした。
結局僕は雰囲気とか大雑把なテーマ性などを追ってしまう性質にあるので、ストーリーや謎そのものには最初から期待していないのに問題があるのでしょう。
改めて考えてみると、謎が解けてすっきりとした気持ちには思いの外なっておらず、ストーリーには荒があり、モヤモヤしている自分に気が付きました。
4 一番の被害者
一番の被害者は先生ですよね。
知らない間に似せた声を作られた挙句、弟子たちは無断で山荘を借りて暮らし、かと思えばそこで殺人事件が起き、その事件の動機には、自分が関係しているのです。
話を聞く限り、ただ芝居に全力な人っぽいので、どうにも先生に同情してしまって困ります。