映画感想『硫黄島からの手紙』
1 絶望
硫黄島という島を守る第二次世界大戦中の日本を描いた作品です。
アメリカ軍は日本軍の何倍もの兵力と武器数をもって攻めてきており、敗北は明らかでした。
後ろへ逃げればなんとかなるという地続きの安心感はなく、退路が絶たれた敗戦濃厚の戦場の恐ろしさが、観ていてよくよく実感されました。
2 矛盾
戦争にはそれぞれの国の立場があるわけですけども、特に日本は矛盾を感じます。
一兵士の家族は、兵士に無事に帰るよう言います。兵士も家族からの手紙なんかを持っていて、その気持ちを大事にしているのに、敗北が見えてきたら、天皇の名のもとに自殺もできてしまうのです。
できてしまうというと語弊があるのでしょうか。
映画に出てくる登場人物たちの生き様、死に様は、その矛盾を多いに抱え、僕に様々な方角から問題提起を生じさせました。
3 色使い
今作は白黒とまではいきませんが、かなり色素を薄めたというか、灰色の映像で進行されていました。
この映像の色がなんというか、救いのなさを強調しているように感じました。
それは人為的な悪意による救いのなさではなく、この世の摂理による救いのなさのようで、誰を恨むではなく、ただただ死ぬまでのカウントダウンを刻む時計を見つめている感覚でした。
4 キャラクター
日本兵はそれぞれでよくキャラが立っていたと思います。言い方は悪いですが、それ故に、それぞれの死に様に映画としての見応えが詰まっていました。
昇とずっと一緒にいた仲間の自殺や、やっぱり投降した末に殺される清水の死に方は、どうにも心に引きずります。
ただそれだけではありません。キャラが立っていることで、手紙というものの重さも変わってきます。
ゲームの世界のようにバタバタと殺された兵士たちは、紛れもない人間で、国のために死ぬ前提がありながらも、決して捨てきれない人間としての生への希望と、家族への愛情があったということを、痛感します。
特にその葛藤を感じたのが、栗林です。あれだけ家族のことを思いながら、それでも兵士たち死地にぶち込み戦う姿。家族のために国を守って死ぬという覚悟で戦うのに、家族がいるから死にたくないという言葉。
5 閉じ込められた人々
兵士たちは硫黄島に閉じ込められていたように感じます。
また、戦争というものに閉じ込められ、天皇万歳というものに閉じ込められ、お国のため、家族のため、日本男児の気概、、、、様々なものに囚われて身動きができなくなって、苦しんでいて、どうしようもなくなって、そして死にました。
僕は同情をはじめとした数多の感想を彼らに抱きました。ですが、そのどれもが意味のない感情だと思います。
昇もまた、生き残りはしましたが、兵士として成長してしまうラストだったため、生き残った幸せは、僕が思うよりずっと少ないでしょう。