白身魚の冷やし汁
この一品は、鱧(ハモ)を使って仕立てたら最高の一品となりますが、一般的に手に入る刺身用の白身魚、鯛や平目、鱸(すずき)で仕立ててみましょう。
夏の暑い夜、こんな一品で晩酌を始めたら、さらに酒が旨くなる、そんな一品です。
刺身用の白身魚は、養殖の鯛が扱いやすいですね。
刺身用のサクを買ってきたら皮目を下にして、身の方から皮に達するくらいの切込みを入れます。
鱧の骨切、あの感覚です。
切り離さない様に皮1枚を残しつつ、身側から1~2mm間隔で包丁を入れる。
鱧を使う時には骨を切って口にあたらない様にするという絶対条件がありますが、最初から骨の無い魚を使うのでアバウトで結構です。
よくアイナメなどでは使われる手法ですが、この切込みは骨を切るのが目的ではなく、身が開き食感を良くする、見栄えを良くする、味のりを良くする事が目的です。
文字で読むと難しく感じますが、挑戦してみると案外と簡単かもしれません。
と言うのは、ご家庭の包丁で生の魚の皮をスパッと切る包丁は、なかなかありません。
身だけを綺麗にスパッと切ることに集中して皮目のところで包丁が止まる感覚を覚えてもらえば、スムーズに切れます。
また、元から先まで包丁全体を大きく使い、刃が身の中に滑り込んでいくイメージで切って下さい。
この包丁の出来次第で料理の出来が違います。
急がず、焦らず、ゆっくりで構いません。
そして決して力は要りません。
魚の身に負担を掛けないように、刃の1番切れる部分を身の中に優しく滑らかに、滑り込ませる。
そんな感覚です。
そして1人前ずつの大きさで切り離して下さい。
職人の中には頭から尾まで一気に骨切りを進めて、後から切り付ける者もいますが集中力を維持するためにも、ひと切れずつ丁寧に切り進めた方が仕上がりが良い気がします。
さて、この魚の身に塩を当てます。
「下味7分」塩焼きなどで切り身を食べるのに必要な塩分量の7割を目安に塩を振って、しばし置きます。
魚の身は塩を当ててタンパク質が分解される事で旨味に変わる。
ステーキ肉などは焼く寸前に塩、これは塩で身が締まって固くなるのを防ぐためですが魚は少なくとも1時間前には塩を当てて寝かせ、身を引き締めてください。
そして、塩が回ったらいよいよ火を通します。
吸物味に仕立てた出汁を沸かして、静かに沈めたら弱火にして2~3分というところでしょうか。
そして、そのまま鍋ごと冷まし、冷蔵庫で冷やします。
これで、ほぼ仕込みは完成です。
広めの底の浅いお椀の真ん中に切り身を据えたら、上に赤い梅肉を置いて、周囲にジュンサイなどを散らし出汁を張る、これでほぼプロの料理が完成します。
お好みで青柚子や白瓜などを添えると、より高級感が感じる一品になる事でしょう。
少しの魚の匂いでも気になるという方は、生姜の絞り汁を加えても良いです。
冷やすと温かい時よりも、味の印象が薄くなりますから、吸物の味付けはやや濃い目が良いです。
それでも冷やした時に薄く感じたら、薄口醤油を何滴か落としたらきっと、好みの味わいになると思います。
そして大切なポイントとしては、鍋を冷ます時は急冷します。
ゆっくりと冷ますより急激に冷ます方が匂いが出ないというのは、修行時代に口伝にて教えて頂いた秘訣です。
また魚の身に、片栗粉をまぶす方法も、よくある手法です。
旨味を閉じ込め、食感を増し、涼し気な見た目を演出する。
ただし、切込みを入れた1枚・1枚に刷毛で粉を打っていくのは、結構な時間を要する仕事なので、根気のある方にだけオススメ致します。
では、本日も良い一日をお過ごしください。