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悪と戦うストーリーに食傷気味なときに読む本
「お前の全生活にはデケイした面白みがあるよーお前は敗滅していく人間だからね」
梨木香歩の『家守綺譚』を読んで、風雅に描かれたな明治時代へのノスタルジーが募り手に取った佐藤春夫の『都会の憂鬱』の暗いこと。
駆け出しの文筆家である主人公が定職につかず日がな一日家にいるという設定は同じでも前者は私小説風に幻想的なエッセンスを加えたエンタメ小説であるのに対して、後者は日の当たらない家で神経衰弱になってしまっている少し気の重たい話です。
冒頭で引用したのは、世俗離れした生活を送る「彼」の家を知人が小説の舞台になると評したときに、彼の脳内で変換された言葉。
他意のない言葉に過敏に反応してしまう感受性には共感するものの、私は世俗的な生活にしがみついているので、「小説の舞台になりそう」と発言する側の人間でしょう。
もとより、「彼」だって達観するには下手な自尊心やプライドを捨てきれないから、まともな社会生活を送る知人から自分の生活をまるで興味本位で読む小説と言われたとひがんでしまうのだけれども。
この小説を読んで思い出す知人がいます。
彼女は頭が良く、美的センスにも優れ才能があるのだけれど、少し繊細すぎるきらいもある。私はその才能への羨望と嫉妬から、この社会の中で生きていくには無防備すぎるかも、と上から目線で思ってしまうような底の浅い人間なので、疎遠になってしまったのですが・・。
私だって社会を上手く生き抜くにはあまりに要領が悪いものの、面の皮が厚いがゆえに平気で長いものに巻かれてしまう、彼女とは対象的な性格だけれども、この都会の憂鬱は同じ共感を持ってくれるのではないかと、儚い期待を抱かずにはいられないのです。