読書感想文:熊嵐
凶暴な動物に肉食獣に襲われるパニック映画は人気ジャンルのひとつで、名作と言われる映画もありますよね。
今回、紹介する『熊嵐』は大正時代に起こった日本最大の羆による獣害事件を追ったドキュメンタリーです。
もう大丈夫だろう、と一安心して緊張の糸が途切れたタイミングで急に羆が再襲してくるくだりなんか、映画の演出の教科書にでてきそうなシーンでぞっとしました。「事実は小説より奇なり」を地で行く惨事で、読んでて寒気がするので夏の読書にも最適(不謹慎)。
無力感が、かれらを襲った。茶色いものは、顔も岩石のように大きく、胴体も脚も驚くほど太く逞しかった。剛毛は風をはらんだように逆立ち、それが地響きとともに傾斜を降下してきた。その力感にみちた体に比して、かれらは自分たちの肉体があまりにも貧弱であることを強く意識した。
羆が人骨を砕く音や、無残に食べ散らかされた被害者の体など過激でグロテスクなシーンも多いのですが、それ以上に印象に深く残るのが羆の存在に圧倒され恐怖で竦む人間(私たち)の描写です。
棍棒でサーベルタイガーに立ち向かわなければいけなかった、なんてはるか昔の御祖先の話・・と思っていましたが、わずか100年前にも同じ状況があったんですね。現在の安全で快適な生活は、ごくごく最近成し遂げられたことで、外敵に対してあまりにも非力な本来の姿を忘れずに生きていこうと強く思う読後でした。