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空に向かって、思いっきり手をふる日

患者さんが退院したり、亡くなるとやっぱりお仕事だからその人のこと忘れちゃう?

たまにこんな質問をいただくことがあるので、今日は以前あった話とともに私が思うことを書いていきます。

半年以上前に入院してきた男性の患者さんが亡くなりました。

夏も秋も冬もクリスマスもお正月も
過ごした部屋は病室でした

最初の頃は息を切らしてでも自力でトイレに歩き。
情けない姿を家族には見せたくないと、どんなに苦しくても面会の時は椅子に座ってる人でした。

身体が思うように動かなくなって、ベッドに寝たきりになり。
奥さんの面会が終わった後には、いつもナースコールが来ました。

どんな内容のナースコールだと思います?
妻が無事に家まで帰れたかどうか代わりにLINEをして欲しい
そんなナースコールです。

無事に着いたか?
その一言を送って欲しい
夜は暗くて危ないから。

奥さんから
ただいまっていう、いつも決まったスタンプが送られてくるのを見て
ちょっと笑って寝る
というのが決まりの方でした。

担当の日に、今日は体調はいかがですか?と聞くと
良くないねぇと返ってくることが増えました。

私が担当だから元気になっちゃいますよーと笑って言うと
“助かるよ”
と優しさを呟くような方でした。

もう死んでしまいたい、生きてたって意味ない
そうやって話すこともありました。

もうすぐ新作のお菓子が下のコンビニで出るから一緒に食べましょうよというと

君は食べるのが好きなんだな、仕方ないな付き合ってやるよ
そんな風に言ってくれる方でした。

どこも行けないしなぁっていう言葉を聞いた後輩が
ベッドごとお散歩に行く提案をして病棟でスタンプラリーをしたり(壁にシールを貼って集めるとかそういうの)

お誕生日を迎えた日
ご家族の方が来て、本人は食べられないからとお菓子の詰め合わせを私たちにくださいました。

待って、それを受け取る前に私達から渡したいものあるんですよ!
と言って

病棟の皆1人1人が書いたお誕生日メッセージを渡しました。
こういうとき
やっぱり私たちは言葉を選ぶので
元気になって
などの言葉は使いません
多分、無意識に書きません

その代わり、一人一人が知ってるその人のことを書いてあるメッセージが印象に残ります。

シャンプーしてる時に、前より上手になったって言ってくれて嬉しかったです。もっと上手になります!

夜中に食べてたかき氷が美味しそうで私も買いました。

奥さんとの出会いの話をまた聞かせてください。

笑顔に私たちが元気をもらってます。

そんな感じです。

私がその患者さんの清潔ケアをしてる時
何にもできなくなって、情けないなぁって言ったから
何にもできなくなっても、私からしたら大切な患者さんなんですよって言ったら最近読んだ本の話になりました。

あの本の続きはどうなったの?
主人公は?

私が読んでいた小説は主人公がホスピスに行って最期に食べたいおやつは何ですか?ということが題材になってます。

そんな話をしていたら
じゃあさ
俺が死んだら何日後(実際には数字を言ってくれてます)に俺が好きだったもの食べてよ
空に向かって手を振ってみて

分かりました
病棟のスタッフ皆でするから、手を振りかえすのが忙しいかもしれないですよ

誕生日の日

歳を迎えて
家族全員に会った日

その人は亡くなりました。

私が患者さんとご家族と一緒に揃った写真をスマホの待ち受けに変えた日でした。

ご家族に、約束の日の話をしたら
分かった!私たちも皆んなでするね
そうやって最期のお別れをしました

その約束をした当日。
もう一度本を読み返して
太陽に当たって
その人が好きなおやつを食べて手を振ります。

看取りながら、違う患者さんの前では笑顔全開の職業はあんまり無いかもしれません。

1人1人印象に残る患者さんは違うかもしれないですが、看取ったあとすぐ忘れることなんて私の場合は無いです。

もう苦しくないし辛くないし痛くもない
あっちで沢山ゆっくりして美味しいもの食べて笑っていてください。

そうやって思ってます。

あ、手を振り返してくれた!

この本に登場するマドンナは私の理想の姿

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