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旅の記録③興味が移行期

Youtubeは偉大だ。「パン」の2文字だけで検索しても動画がずらずらーっとヒットする。レシピはとり放題だし、生地の状態や発酵の見極めなど、文字では伝わらない情報が映像にぎっちり詰まっている。

簡単にできるプレッツェルや食べたかったチョコメロンパンやふわふわ食パン、行程が楽しい編み込みツオップなどを作ってみた。メロンパンは格子模様がつけられなかったけれど初めてにしてはなかなかの出来でした。もっと色々なパンに挑戦したい!に行くのかな思ったら、なぜか興味がふっと切れてしまった。

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1本だと思ったパン道は、左と右に道が分かれていた。分岐点に左は「バラエティ」、右は「発酵法」の矢印がかかっている。左の道を選ぶのは「食いしん坊」で「色々と作るのが好き」な人ではないかと思う。右を選ぶ人は…。何だろう。道に霧がかかっていて、目的地もよくわからない。

ともあれ、自分は左の道を選ばないということが、わかってしまった。食いしん坊じゃないからかな。おいしいモノは好きだけれど、「あそこのあれ」とか「この店のこれ」とわざわざ足を運ぶタイプじゃなかったし。だから「食の不毛地帯」といわれるオランダでも不自由しないで暮らしていけるのかも。

右の道を進むことにした。

シュワッとしないレーズン酵母

天然酵母で検索するとヒットするのが「レーズン酵母」。そうだ! 編集者&ライターとして参加したムックで、パン職人を一日取材して、「レーズンで作る天然酵母」の記事を自分で書いたじゃないか!!

「書く」ニューロンと「作る」ニューロンがめでたく結合するまでに15年がかかりました。

Youtubeを見ると、レーズン天然酵母を作る人が楽しみにしているのが、蓋を開けた時のシュポンッ!!という音らしい。ワックスがかかっていないレーズンを水とハチミツにつけて数日待つと、レーズンがプクプク&シュワシュワ泡をまといはじめる。そうして蓋を開けると、炭酸水のキャップを開けたときのような勢いとともにレーズンがシュワシュワーっと元気よく泡立つ。その瞬間を何より楽しみにしている様子がいろんな動画から伝わってきた。

早速、自分が書いた記事に従ってグラスの瓶にレーズンを仕込む。なになに、一日に数回振るのね。2日たち、3日たち。グラス瓶のレーズンは沈黙したまま。あら、なんで。寒いからかしら…。発酵って温度が大切そうだし…。4日たち、5日たち。シュワシュワどころか、泡のひとつもたたない。振り方が足りない? マラカスのように上下、左右に振ってみると、ちょびっと泡がたつ。これのこと? いやー、違うよな…。オーガニックレーズンなんだけど、ワックスかかっていた? 発酵に必要とされる糖分が足りなかった?

そして一週間。カビました。レーズンがまとったのは泡ではなく青かびでした。

そして自分が書いた記事に痛恨のミスがあったことに気づきました。「蓋を開けて空気にさらしてあげる」という大切な情報がなかったのです。発酵に空気はMUSTで、密封したらあかんのです。あのムックを買った人たち、「プクプクしない!」って不安に思ったかなあ。15年後のごめんなさい。

発酵法の基本の「き」を青かび事件から学び、レーズン酵母も順調に育てられるようになりました。かけつぎしたり、弱った酵母に糖分を与えれば元気が戻るなど、1回作ればずーっと使えることも知りました。

レーズン酵母からルヴァンへ

2日くらいかけて元種(中種と多分同じ意味)を作ったり、ブドウの香りが生地に移るってことで水の代わりに酵母液を使ったり(あまりブドウの香りはしませんでした)していたところ、ツレのPどんが「ルヴァンでやらないの?」と聞いてきた。

ルヴァン。よく聞くよね。パン・ド・カンパーニュとか、ドゥ・リーブルとか、フランスのパンのひとつだったよね。「ルヴァンでやる」ってどういう意味。調べると「発酵種」とある。レーズン酵母も発酵種のひとつなハズなんですけど。だから、すでにルヴァンってることになるはずですけど。Pどんは「違うと思う」と悲し気に首を横に振る。じゃあ、なんのさ。「よ、よくわからないけど、レーズンじゃないと思うよ」。天然酵母と発酵って違うの?

確かに、レーズン酵母は日本語では星の数ほどヒットするのに、英語やオランダ語で検索するとがくんと落ちる。混乱してきたので英語でさらに調べてみた。

Levain is a leavening agent made from a mixture of flour and water and used to bake bread.

ルヴァンとは、水と小麦からできたパンをふくらませるもの。

そうなの! ルヴァンって、水と小麦で作る発酵種っていう意味なの!! てか、小麦と水だけで発酵種が作れるの!

右の道はさらに枝分かれしていたのだった。左の矢印は「レーズンやフルーツなどでおこす天然酵母」、右の矢印は「小麦粉と水で作る発酵種」。

あんなに大切に育ててきたレーズン酵母に唐突かつ無情にも別れを告げ、右の道を行くことにした。その時は、右の道はヘンゼル&グレーテル顔負けの深い深い森におおわれていたことを知るよしもなかった。





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