リアルだけど、ファンタジー。 だけど、世界(ひと)を諦めたくない。
#2021年ベスト映画 、というハッシュタグがツイッター上でトレンドに上がった。皆がそれぞれの映画の名前をあげたり、なぜ好きなのかについて140字で綴る。
私も考えてみた。多くのいい映画に出会った。
そのなかで、特に印象に残ったのが『すばらしき世界』だ。理由はまだうまく言えない。理由は確かにあるんだけど、まだうまく言えない。悔しい。
西川監督の映画で、もうひとつ大好きな映画がある。『永い言い訳』だ。「好きな映画は何か」と聞かれたなら、名前を出すくらい響いた映画だ。
でもこれもまた難しい。ただでさえ、映画の感想を言葉にするのは苦手なのに、この映画は特に感想を出すのが難しい。
この機会に、何度か観直し、
『永い言い訳』で感じたことを、自分の言葉にしたら
なぜ『すばらしき世界』が2021ベストだったのか分かってきた。
観ていない人も多くいると思います。ぜひ観てください。映像も音楽も、とても好きな映画です。
『永い言い訳』
はアマゾンプライムで観れるよっ!!!笑
ここからは、映画の内容を含みますが、あらすじやネタバレではありません。(ネタバレがある映画じゃないけど)人生観、映画観を語る日記でもあります。
「失ってから、大切なものに気づく」とはよく言う。ミスチルもバンプも、クリープハイプも言っている。あと、Aqua Timezも言っていた。
この映画の主人公・幸生も「失ってから気づいた」ひとりだ。
ただ、失恋ではない。悲惨な事故で妻を亡くしてしまった。愛してこなかった、大切にしてこなかった、なんなら馬鹿にしていた、「舐めていた」妻が亡くなってしまった。そしてその時、幸生は家に愛人を連れ込んで、遊んでいた。
こいつはもうこの世の終わりだ。というほど最低なやつが主人公だ。
幸生がどんなに取り繕って、悲しんだふりをして、世間を欺こうが、
自分の家でひとりになれば、「妻が死んでも素直に泣けない奴」、それが自分だという真実だけが残る。
その苦しみに耐えられなかった幸生は、自分を変えるしかなかった。いや変えることができる幸運の持ち主だった。
妻が亡くなった後、大宮家に出会い、子どもたちとふれあい、「永い言い訳」を書き終えた今の幸生にとって、夏子は大切な人だ。
きっとあの時大切だったわけではない。彼は夏子のことを知らない。知ろうとしてこなかった。自分しか見えていなかったからだ。
樹木希林さんは間違っていないかもしれないけれど、
私は監督の世界で生きる
この映画に対する、樹木希林さんの言葉が印象的だった。
グサッとくる言葉だった。人間は成長しない。性格は変わらない。
その樹木希林さんの言葉に対して、西川監督は力強く言った。
それがこの映画の全てなんだと思う。
西川監督は、人間は愚かだけれど、
「気づくこと」ができると信じている。
「真正面から悲しみに向き合うことの強さ」
「離れるのは一瞬だということ」
「大切にするべき人を舐めたらダメなんだということ」
幸生が汗をかきながら、もがいて、葛藤して登ったあの坂道は美しい。
カーテンを揺らす風は心地よい。
世界はやっぱり、まだ諦めなくてもいいということ。
それは、大切にすべきだった人が亡くなった世界だとしても。
変わらない日常のなかに、素直に、舐めないで生きることの大切さを、
目を背けたくなるほど、真っ直ぐに見せてくる。
幸生はノートを開いて、文字を綴る。
愛せる人がいない人生は、自分を愛することも難しい。
「人に興味がないんだ」という人がいるけれど、
そんなのは、おこがましいことだと思う。
人を思うことは自分の存在を肯定することであり、
人を舐めてバカにするということは自分の存在を否定することである。
ひとりで生きている人はいないのだから。
幸生が自分を肯定し、生きる今、妻の夏子はいない。夏子が死んでいなかったら、今の幸生はいない。
季節の流れ、時間の経過とそれぞれの変化、
人というものをリアルに見せてくれる。
それは自分のことじゃなくても、恥ずかしくなるくらい嫌な部分だ。
遅すぎるが、遅すぎても気づくのが変わるのが、西川監督の作品だ。
憎らしい、けど諦められない。
そんな「すばらしき世界」に私たちはいるのだろう。
人に、世界に、希望がある。
リアルだけど、ファンタジー、理想の世界。
そんな西川監督の描く世界は、高くもない理想だと思いたい。
・参考
映画『永い言い訳』2016年10月14日(金)全国ロードショー
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里
原作・脚本・監督:西川美和
原作:「永い言い訳」(文藝春秋刊)
配給:アスミック・エース
©️2016「永い言い訳」製作委員会
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