赤ちゃんメディアアートを制作し続ける意味
1:赤ちゃんの作品と胎内記憶
赤ちゃんに関連するアート作品を展示していると、体験者の方々からご自身のお子さんが胎内に居た事や出産の事、小さな子供からは胎内記憶を聞かされる機会がある。
赤ちゃんに纏わる作品は、元々作者の私自身が大失恋から生まれ変わりたいと思い制作したが、それが思わぬ形で体験者から学ぶ事が多く、どこかに書き留めておきたいと思いようやく筆を取ることができた。
2:今までの赤ちゃんに関するメディアアートについて
・「Into the Womb」最初に2017年に展示した 子宮の中に還り体験者が胎児になるVRでは、展示場所が理工系のキャンパスであったが、中には妊婦さんが体験したりお子様づれの親子が体験したのが印象的だった。特に印象的だったのは、生後六ヶ月の赤ちゃんが一緒に体験し、本当にお母さんの子宮の中へ子供が還っていく感じがした。
・2018年に制作したRobot Loveと言う体験者が精子隣、ロボットと人間が受精し未来の子供を授かる作品であった。
この中で印象的だった体験者は、ある親子連れの高校生が作品を体験した時に、近くにお母様もいらっしゃったので「次体験いかがですか?」と声をかけると、
「私今おばあちゃんになったの。自分の孫を見れたから良いの!」
作品を通じて偶像の親子三世代が作れたのはとても喜ばしい事であった。
・Shinan Baby -little-
胎児と生命の美しさを表現したいと思って制作した作品
作品の空間を子宮に見立て、光る胎盤から臍の緒に通じている胎児に向かい生命の光を送り込む。
この時、親子連れのお母さんが子供が胎内に居たときの事を話しをしてくれたり、7才の女の子が自らの胎内記憶を話してくれたのが印象的であった。
3:体験者の出産時を呼び起こす
母親が自分の子供を産んだ日を忘れないのは有名な話だ。赤ちゃんに関する作品を展示していると、体験者自らが自分の子供や出産時の話をよくしてくれる。 赤ちゃんメディアアートを展示した時の体験者の出産時エピソードを紹介したい。
⑴既にお子さんが成人してしまった女性の方が懐かしそうに話をしてくれた。
-私が子供を産んだ日はね、桜吹雪がとても綺麗な日だったんです。まるで、桜が生まれてくるのを祝福しているようなそんな日でした。
だから、私たちの子供には 櫻子と名付けたのですよ。
⑵ぴったりなタイミングで生まれた子供の話し
「このこね、出産予定日ぴったりに生まれたのよ。出産の前日まで仕事していたし、復職も計画通りだったけれど、本当ぴったりだったし!」
⑶複数人の出産経験
一人目はね、ファンタジーなの!
だんだんお腹が大きくなっていって、つわりも陣痛も楽しめてワクワクするんですよ!
でもね、二人目は一人目の世話で忙しくてそれどころではなかったですね。
またつわりがくるんだなーとか少しナーバスになったけれど、二人目はよりリラックスして出産しましたね。
どの体験者にも共通している事だが、自ら自分の子供が生まれた日のことを話す女性はとても生き生きしていた。
4:胎内記憶を呼び起こす
赤ちゃんメディアアートを展示していた驚くのが胎内記憶を持つ子供が自らベラベラと胎内の事を話し始める事だった。
大きな子宮のオブジェを見るなり2、3歳くらいの子供が
「僕ねーお母さんのお腹の中でおしっこしちゃったの!」
「お母さんのお腹から出てくる時ね、頭すっごく痛かったんだよー!」
「お父さんとお母さんが喧嘩している超え聞こえたよー」
「お腹の中はね、真っ赤なんだよ!」
「この子、3歳まではペラペラとお腹の中に居た時の事を話してくれたんですけど、4歳くらいからはあまり話さなくなりましたねぇ。。」
自分もそうだったけ?と思い返しながら子供の話しを聞くが、最初はイメージがつかなかった。しかし、様々な文献を読んでいく内に胎内記憶の共通点として
・水、浮遊、赤、痛み、声、排泄
これらが共通している事がわかり、次からの作品でも胎内記憶を話す子供がきても楽しくその話しを聞く事ができた。
-Shining Babyの時に印象深かったのは、7才の女の子がお母さんと一緒に作品の前に来た時だ。作品を見るなり、
「私、お空の上からね、滑り台に乗ってお母さんのお腹の中にストーンって入ったんだよーすとーんって入って行ったの」
この女の子は7歳まで記憶があると近くに居たお母様が話してくれた。
お空ってどんな感じのところ?と聞いて見ると
「んー?なんか白い世界。曇よりも上にいたよ。雲はね、その世界よりもずーっと下にあるんだよ」
「それにね、私はお父さんとお母さんを空の上で選んで生まれてきたの。空でジーってお父さんとお母さんを見て”これだ!”と思うお母さんの所に飛び込んだんだよ!」
文献によると胎内記憶は2−3歳まであると言うが、それ以外の例もあるのかもしれない。そして、両親を選択すると言う知見は初めて知ったが、ごくたまに「両親を選んで生まれてきた」と言うのは聞く話しである。
この事についても調べて見ると面白いのかもしれない。
-Re:born 生まれる体験出産VR
今作っている作品で産道を通過するプロトタイプを大学生にやって頂いた時のエピソードです。大学生らは体験後に、自分の生まれてきた日の両親からの話しを教えてくれたのです。
「自分は逆子でお母さんのお腹の中に手を突っ込んで足を引っ張られたと聞きました。」
「とにかく難産で30時間以上はかかったらしいです。陣痛材やっても出てこなくて 何してもダメで
お母さんは眠気を通り越した体験だとは言っていました。」
まるで、産道マシンが学生らの遠い記憶を呼び起こしている様な感じを受けた。
5:これからの赤ちゃんメディアアートの展望
赤ちゃんに関する作品は、私は生まれ変わりたいという思いで作品を作り続けている。
それが、いつしか誰かの胎内記憶や出産の想い出を蘇えさせているのだ。
展示していて思うのは、どうして体験者は自分の出産体験や自分の子供の事を展示者である私たちに伝えてくれるのだろう?
私はまだ出産経験が無いが、出産した方々やお子さんを持つ人たちで快く自分たちの経験を語ってくれるのだ。
まるで、赤ちゃんメディアアートが赤ちゃんの記憶や大人の人たちの子育て経験を瞬時に思い出させる様に感じられる。
命は尊いと思っていたけれど、
命を継ぐ事はとても喜ばしいく
自然と笑顔になれたのだ。
これらの話は一瞬偶像や瞑想で幻であるかとも考えられる。
しかし、胎内記憶は共通している内容で一貫しているところがある。
胎内記憶を解析することは何の役に立つかは現時点ではわからないが、少なくとも胎児の記憶が繋がった瞬間に人は生命の尊さや神秘さ、そして凄さに驚き気づくのかもしれない。生命とは本当に素晴らしく力強い存在だと気づく。
私は体験者の人たちの胎内記憶の話から学びになったのと、一見オカルトさは感じるものの現実にある話と不思議と結びつくのだ。
私たちの製作している作品は、もしかしたら胎内記憶や子供を産んだ日を記憶を集めるプロダクトなのかもしれない。
きっとこれからも赤ちゃんに纏わる作品は作り続けていくだろう。
次は、赤ちゃんと直接インタラクションできる作品を作ろうと構想している。
赤ちゃんメディアアート制作に終わりは無い