ユメヒロバ③森の奥の物語は終わらない
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ユメヒロバvol.3のお相手は、小学生からの幼馴染、さつらいかほ。
高校卒業後、札幌の専門学校にて音楽を学び、シンガーソングライターとして札幌を中心に活動。
結婚後は、札幌でステージ活動を展開しつつも、カフェ店長に。
エネルギッシュな活動を広げていく彼女の、まだ知られていない人間性を覗いてみたい。
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fall in the dark but my mother singing a song
奥田:まず、シンガーソングライターにはいつ頃から目指していたの?
さつらい:やりたいなって思ったのは中学2年生くらい。
奥田:そうなの!?知らなかったんだけど(笑)
さつらい:誰にも言えないよ!歌手になりたいなんてさ(笑)中学2年のテスト期間に尾崎豊を聴いて、「これが自由だ!」と思って。
奥田:高校の時も歌手になりたいって思ってたの?
さつらい:思ってた。高校の時からギターの練習はしてたんだけど、全然上手くはなれなくて、作詞だけしていた。
奥田:じゃあライブは札幌に行ってから始めたんだ?
さつらい:うん、初めてのライブは2012年かな。18歳の時。
奥田:それは自分の曲でライブしたの?カバー?
さつらい:カバーとオリジナル混ぜて30分のステージ。しかも学校の外のライブ。その30分が地獄のように長かった。
奥田:俺が大学でライブしてた時なんか10分くらいだったよ。
さつらい:それがいいわ。30分は長い。今でも25分が一番丁度いい。
奥田:MCは?
さつらい:MCはほぼなしで4〜5曲。結局喋っちゃうんだけど、喋んない方が良いなって思うんだよね。
奥田:それが理想なんだ。俺はね、めっちゃ喋っちゃうんだよね。
さつらい:面白いならいいじゃん。
奥田:でもダサいよね。めっちゃ喋るの。
さつらい:私は喋る能力がないからなぁ。
奥田:俺は結構かほの曲を聴いていて。2年前に出した『トマトとメロン』とかめっちゃ良かったんだよね。
さつらい:聴いてくれてたんだ!
奥田:一番好きな曲が、前から言ってるけど『AI』という曲で。コロナ禍でTwitterで弾き語りバトンリレーみたいなのが流行った時に、かほが『AI』を弾き語りしていて、あれが本当に良かったんですよ。あの曲は悲しい曲だよね。
さつらい:うん、そうだね。
奥田:多分、失恋した人の曲なんだよね。でも、大切な人を思う気持ちが込められた曲で。あの曲はどうやって生まれたんですか?
さつらい:いやー、どうだっただろう……。昔すぎて(笑)
奥田:実体験なの?
さつらい:メロディーがいつも最初に浮かんでくるから、あの曲も曲先で、そのメロディに合う気持ちとか身近なことをのせるから。片思いしてたんじゃないかな、その頃は(笑)
奥田:最近の曲ではCDに入ってた『生きた証』。あれも良い曲だよね。
さつらい:レコーディングがボロボロでめっちゃ悔しいんだよね。
奥田:「例え私が死んでも、例えあなたが死んでも、2人がいたあの日々たちは生きた証」というフレーズがある日とても刺さって。あれはどうやって生まれたの?
さつらい:あれはうつ病になった時にできた曲で、記憶が半分なくて。感覚的には起きたら曲が出来てた、みたいな。
奥田:まじで!?
さつらい:どんな顔して書いてたのかなぁ。曲を書く時は録音してるんだけど、気づいたら録音と歌詞とコードがあって。不思議な現象が起きたんだよね。
奥田:理屈で考えた詞やメロディじゃないってことだね。
さつらい:自分で改めて歌詞を見てみると、言葉遣いとかが、好きだったフォークシンガーの森田童子のような言い回しで、影響されているかも。
奥田:なるほど、色々大変だったんだね。
さつらい:若かったからね(笑)
札幌に森のようなカフェが誕生
奥田:4年くらい前かな、みんなでカラオケ行った時に、何も聞いてないのに、急にかほから「私の夢は雑貨屋さんになること!」って言い出したのが衝撃的で、今でも覚えてるんだけど。今はカフェの店長になったよね。どういう経緯でカフェの店長になったの?
さつらい:自分がお店をやりたいっていう思いはずっとあって。外で働いていても、自分らしくいれなかった。自分らしく働ける場所を作りたくて、ジブリも好きだから、ジブリっぽいテイストで、森にいる気持ちになるようなカフェを作りたいと思ってた。ちょうどそのタイミングで旦那さんが借りた倉庫の向かいの店舗に空きがあって、やろう!と思った。
奥田:そうだったんだ。
さつらい:ちょうど職業訓練校を卒業するタイミングで、ウェブ系に就職するかどうするか、うーん……となっていて。そのタイミングでお店が出来るっていう話が来たから、やる!って思った。
奥田:不思議なタイミングだね。
さつらい:なんか、ちょっと初心を思い出したわ。ありがとう!
奥田:それは良かった!
さつらい:ゆくゆくは雑貨屋さんにしたかったんだけど、やっぱり儲からないから。雑貨は必需品じゃないからね。
奥田:でも、かほの理想が詰まったお店だったね。お店に置いてる雑貨にもこだわりがあったり、音響設備が整ってるし、雰囲気が確かにジブリっぽかった。
さつらい:もっと緑にしたいんだよねぇ。森みたいな!
奥田:もう森みたいだったけどね。
さつらい:まだ足りない。緑でわっさわっさにしたい。
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シンガーとして、裏方として
奥田:もう一つ、かほとの衝撃的なエピソードがあって。7年くらい前かな、かほがユニットを組んでいたよね、カホニストの人と。でもしばらくしたらカホンの人がいなくなって、俺が「もうカホンの人とはやらないの?」って聞いたら、かほが「やらない」って言って。「なんで?」って聞くと、かほが「目立ちたいから」って答えて。そんな理由なの!?目立ちたいんだ!?って思って。
さつらい:そんなこと言ってたの?
奥田:覚えてないの?自分が目立ちたいからユニット辞めたんだと思って。でもそれが面白くて。
さつらい:昔の自分、本当に痛いんだよねぇ。今もだけど。
奥田:かほって逆のタイプに思われがちなんだけど、思い返してみたら、小学生の時から学芸会では主役を務めていて。
さつらい:自分からやりたいって言ったもんね。
奥田:実は目立ちたがり屋なのかなって。
さつらい:私は人見知りがすごいから、色々溜まっていて……。自分を発散する場所がステージだったのかも。
奥田:小学生の時からそうだったってこと?
さつらい:そうだと思う。小学4年生の時に和太鼓を初めて、ステージに立っていて。本当は目立ちたがり屋なんだろうね。でも普段はなかなか出せない、みたいな。
奥田:すごく共感できるところがあって。俺も結構目立ちたがり屋……
さつらい:じゃん。
奥田:ばればれ?(笑)でも日常的に目立ちたいっていう訳ではなくて。人と違うことがしたいと思ったり、ステージに立ちたいという思いがあったりするんだよね。
さつらい:でもね、わたし今は真逆だわ。今は、ボーカルも誰かと一緒に歌いたい。一人でやるより、誰かと組みたい。
奥田:それはなんで?
さつらい:その方が楽しいから。自由に遊んでいられるじゃん。誰かがMCしてくれるし。実は今、凄い先輩とバンド組む話になっていて。
奥田:それじゃ、かほがフロントマン?
さつらい:いや違うのさ。フロントマン本当にできなくなったの。フロントが二人いるのがいいな。ハンバートハンバートみたいな。
奥田:それ良いね!
さつらい:やる?(笑)
奥田:やりたい!でも男女混合のツインボーカルはいいよね。よくそういうバンドも聴いてる。男女のツインボーカルだと、二人で歌う曲も勿論良いんだけどそれ以外に、どっちかがメインの曲とかバリエーションも増えて、雰囲気が全然異なっているのに、同じバンドとして成立している、みたいな。
さつらい:楽しいよね。やりたいことが多いなぁ。
奥田:他にやりたいことある?
さつらい:キッチンカー!多分私、一箇所に留まるのができないんだよね。
奥田:カフェの料理をキッチンカーで出すの?
さつらい:1ヶ月でメニューが変わったり、その時のその土地でのメニューだったり。すでに車を見てるんだよね(笑)
奥田:中古車でもあるよね、改造したり。
さつらい:札幌でキッチンカー流行っていて、少し高くて。でもやりたい〜って思っていて。私、究極の飽き性なんだよね。
奥田:俺も同じ!
さつらい:何かやりたいこととかあるの?
奥田:いや、ざっくりしか考えてないのよ。でも思っているのは、色んな人の人生にもっと関わって、そこで仏教を再発見していきたいなと。
さつらい:奥ちゃんならできるよ。
奥田:趣味でも飽き性なんだよね。スケボーを始めたと思いきや、やらなくなったり。
さつらい:音楽は?
奥田:音楽は変わらず好きだね。ステージに立つことは減ったけど。ライブも観に行くし。
さつらい:やりたいこと、もう1つあった。
奥田:なに?
さつらい:地元のアーティストを応援したい。
奥田:アーティストの活動を支えたいってこと?
さつらい:裏方として支えたい。コロナ禍になってから配信ライブが増えて、カメラも触るようになったし、MV制作も始めて。もっとできることがあるんじゃないかって、ずっと思ってる。
奥田:不思議だね。昔は自分が目立ちたいっていう気持ちが強かったのに、今は裏方として誰かを支えたいって思ってるっていう。
さつらい:あっ!ほんとだね。
美味しいキャビアの食べ方
奥田:最後に1つ聞かせてください。28歳のかほが今持っている夢は何ですか?
さつらい:友達がいっぱい欲しい。
奥田:小学1年生かよ!
さつらい:やりたいことがありすぎて!ちょっと考えさせて。うん、そうだなぁ……具体的には、3つある。
奥田:聞かせて。
さつらい:お店を有名にしたい。カッコいいライブができるようになりたい。札幌のアーティストを応援できる人間になりたい。
奥田:なるほど。俺はあまり知らないけど、今の旦那さんがそういう夢を持って、体現しているような人だと想像してる。自分もプレイヤーにもなるし、縁の下の力持ちみたいな存在にもなるっていう。
さつらい:マルチな人なんだよね。PAや照明もするし、ライブ配信やCDのデザイン、企画やブッキングもする。旦那さんを支えたいっていう気持ちもあるのかな。
奥田:今まで聞かせてもらった内容が、3つの夢に集約されている気がする。でも誰かを支えたいって思えるのは凄いな。俺はまだまだ自分が目立ちたいから(笑)
さつらい:いや、大事だよね!その方が絶対若くいられるよ。
奥田:バンドやるってなっても、絶対フロントマンになりたい。
さつらい:いい。絶対いいよ。
奥田:かほのお店が有名になったら、どうなるんだろうね?
さつらい:キャビアを食べる。
奥田:お店でキャビアを提供するんじゃなくて、自分が食べるの?
さつらい:うん、自分が食べる。
さつらいかほ|PROFILE
対談を終えて
苦節を乗り越えて大人になった彼女の目は今でも輝きを失わず、とてもドキドキするような対談でしたね。そして、共通点が多くあるというか、性根が似通っていることを改めて感じました。
かほとは中学卒業後から別々の道を歩むことになりましたが、溜め込んだ感情や思いの丈を正直に具現化してゆく彼女の姿に、いつも背中を押されていたことを思い出します。飽き性で、やりたいことも溢れるように出てくる彼女のことなので、来年には今の対談内容とは全然違うことを言ってきそうな、そんな気がすることも彼女らしいです。
目立ちたがり屋だったのに、他人を支えることを夢として持つようになったのは、彼女がアーティストとして、人として、とても成熟されている証なんじゃないかと想像してます。不思議なことに、自分のために行っていた(自利)ことが、実は他人のためになっていたり(利他)、他人のために行っていた(利他)ものが、自分を大切にする(自利)ことに繋がっていきます。仏教ではこのような生き方を大乗菩薩道と言いますが、彼女の生き方そのものだと感じました。