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「観る将」が観た第18回朝日杯本戦 藤井七冠の1-2回戦

1月19日に第18回朝日杯将棋オープンの本戦トーナメントで藤井聡太竜王名人が登場する1-2回戦が「ポートメッセなごや」で行われました。


1回戦 藤井聡太竜王名人 vs 阿久津主税八段

午前中に行われた1回戦では、本戦から登場の藤井竜王名人と、二次予選で佐々木大地七段と森内俊之九段を降して本戦に勝ち上がり、現在公式戦9連勝中と好調のの阿久津八段との顔合わせとなりました。

戦型は横歩取り

振り駒で後手となった阿久津八段が横歩取りに誘導し、藤井竜王名人は青野流で応じます。阿久津八段は早々に6筋に玉を上がる工夫を見せ、藤井竜王名人が9筋の歩を突くと、7筋の横歩を取ります。お互いに早くも想定の局面を外れたのか、一手一手慎重に時間を使って指し進めています。

藤井竜王名人の2枚桂

藤井竜王名人が8筋に金を上がって飛車を追うと、阿久津八段は飛車にぶつけて交換します。藤井竜王名人は左右の桂で中央を狙い、阿久津八段が天王山に角を飛び出し先手の右桂に当てると、3筋の銀を立って桂を支えます。阿久津八段は角を6筋に引いて両取りの筋を防ぎ、藤井竜王名人が左桂を6筋に跳ねると、自陣の桂を3筋に跳ねて先手の右桂の活用を牽制します。

竜の作り合い

藤井竜王名人が8筋に飛車を打ち込んで竜を作ると、阿久津八段も2筋に飛車を打ち込んで竜を作り、更に2筋に歩を合わせます。1分将棋に突入した藤井竜王名人は9筋に角を覗いてぶつけ、阿久津八段が2筋に"と金"を作ると、角を交換します。阿久津八段も1分将棋となって竜で取り、藤井竜王名人が銀で"と金"を取ると、桂香両取りに△5五角と打ち直します。AIの評価値は阿久津八段の56%とわずかに傾いています。

竜の取り合い

藤井竜王名人は4筋に角を合わせ、阿久津八段が角交換に応じてから△2八角と打ち込むと、8筋で働きの弱かった金を前進して遊び駒の活用を図ります。阿久津八段は香を取って馬を作り、藤井竜王名人が金を7筋に上がって竜に当てると、△7四香と打ちます。藤井竜王名人は金で竜を取り、阿久津八段が香で竜を取って銀に当てると、構わず▲5三金と飛び込んで王手し、金桂を銀と交換する代わりに後手玉を吊り上げてから、王手香取りに▲5六飛と打ちます。AIの評価値はほぼ互角に戻っています。

藤井竜王名人の攻防の角

阿久津八段は桂で合い駒し、藤井竜王名人が飛車で香を取ると、6筋に金を打って飛車に当てます。飛車を縦に逃がすと合い駒に使った桂で王手銀取りがあるので、藤井竜王名人が飛車を8筋に寄ってかわすと、阿久津八段は5筋に歩を合わせて飛車の横利きを止めます。藤井竜王名人は▲3五角と打って王手しつつ4筋の歩に紐を付け、阿久津八段が玉を4筋に引いてかわすと、5筋でぶつかっている歩を取ります。AIの評価値は藤井竜王名人の69%と大きく傾いています。

阿久津八段が馬と竜で反撃

阿久津八段は先手陣に飛車を打ち込み、藤井竜王名人が4筋の金を上がって桂取りを防ぐと、馬を2筋に引いて2枚替えを狙います。藤井竜王名人は飛馬両取りに銀を打ち、阿久津八段が飛車をかわしつつ竜を作ると、取れる馬を取らずに3筋に香を打って攻め掛かります。阿久津八段は馬を銀2枚と交換し、藤井竜王名人がもらった角を5筋に打ち込んで王手すると、4筋に引いてかわします。

切れない攻め

藤井竜王名人は3筋の香で桂を取って詰めろを掛け、阿久津八段が銀を打って逃れると、4筋に桂を跳ねて角と成香に紐を付けます。阿久津八段は銀で角を取りますが、藤井竜王名人が桂で取り返して詰めろを続けると受けが難しく、ここで投了を告げました。

1回戦のまとめ

本局は2年前の朝日杯1回戦と同様に横歩取りの激しい変化を秘めた戦いとなり、中盤の入り口まで阿久津八段が主導権を握りました。藤井竜王名人は遊んでいた金を活用して後手陣に突撃し、攻防の角を放って形勢を入れ替えると、阿久津八段の反撃を凌いで寄せ切りました。

2回戦 藤井聡太竜王名人 vs 服部慎一郎六段

午後に行われた2回戦は、今年度は0.889と歴代最高記録を上回る高勝率で勝ちまくっている服部六段との顔合わせとなりました。服部六段は一次予選を突破し、二次予選では谷川十七世名人らを降して初めて本戦に駒を進め、午前中に行われた1回戦では銀河戦2連覇中の丸山九段との激闘を制して勝ち上がっています。両者の対戦は奨励会以来とのことで、意外なことにプロ入り後は初めての対局となります。

戦型は矢倉対雁木

振り駒で先手となった服部六段が矢倉を選択し、藤井竜王名人は急戦調の駒組みから中住まいに構え、早めに銀を5筋に腰掛けてから雁木に組みます。服部六段が5筋の歩を伸ばして銀を追い返すと、藤井竜王名人は4筋に桂を跳ねて仕掛けます。服部六段は5筋に角を引いて桂に紐を付け、藤井竜王名人が5筋の歩をぶつけて交換すると、5筋の銀頭に歩を打ちます。

服部六段の研究手順

藤井竜王名人が桂を交換し、銀を4筋に上がって銀交換すると、服部六段は▲5四銀と打って後手玉の玉頭から攻め掛かります。意表を突かれたのか藤井竜王名人は少し時間を使い、4筋の銀を立って銀交換を避け、服部六段が7筋の歩をぶつけると、更に10分以上考えて歩で5筋の銀を捕獲します。

藤井竜王名人が1分将棋に

服部六段が7筋の歩を取り込んで桂に当てると、早くも1分将棋となった藤井竜王名人は4筋の歩を突き捨てて角の利きを止め、歩で5筋の銀を取ってから△4七銀と打ち込みます。30分近く残している服部六段は少し時間を使って7筋の桂を歩で取り、藤井竜王名人が金で取ると、銀取りに▲5六桂と打ちます。AIの評価値は服部六段の59%とわずかに傾いています。

服部六段の継ぎ桂

藤井竜王名人が銀を5筋に上がってかわすと、服部六段は王手金取りに▲4四桂打とつなぎます。藤井竜王名人は銀で取って桂2枚と交換して角で取り、服部六段が4筋の歩を伸ばして角道を通しつつ後手の角に当てると、2筋に戻してかわします。服部六段は角を2筋に覗いて後手陣を睨み、藤井竜王名人が4筋に歩を打って角の利きを止めると、玉を6筋に引いて早逃げします。AIの評価値は藤井竜王名人の58%と逆転模様です。

服部六段が連続して歩を成り捨て

藤井竜王名人も玉を6筋に上がって早逃げし、服部六段が4筋の歩を取り込むと、角を1筋に覗いて王手します。服部六段は玉を8筋に上がってかわし、藤井竜王が少し迷った手つきで5筋に桂を打って金に当てると、5筋の歩を成り捨てて玉で取らせ、更に4筋の歩も成り捨てて玉で取らせ、王手桂取りに▲4四銀と打ちます。AIの評価値は再び服部六段の60%と振れています。

藤井竜王名人の中段玉

藤井竜王名人が玉を5筋に上がってかわし、桂を取らせる代わりに銀を取ると、服部六段は5筋の底に桂を打って銀に当てます。藤井竜王名人は銀を3筋に引き成って角に当て返し、服部六段が馬を作って金に当てると、構わず今度は7筋に桂を打って金に当てます。服部六段が馬で金を取ると、藤井竜王名人は更に8筋の歩頭に桂を打って金に当てます。AIの評価値は服部六段の72%と大きく傾いています。

藤井竜王名人の罠

ようやく持ち時間を使い切った服部六段は歩で取って銀桂交換に応じ、藤井竜王名人が飛車を走って王手すると、歩で合い駒して飛車に当てます。藤井竜王名人は構わず△7六銀と打ち、うっかり飛車を取ると先手玉には詰みが生じるようで、看破した服部六段は▲7五金と打って王手します。藤井竜王名人は金銀交換に応じてから再度△7六金と打ち、服部六段が馬で王手すると、4筋に引いてかわします。

守りを補強しながらの寄せ

服部六段は歩で王手し、馬で王手しつつ守りにも利かせてから7筋の金を交換し、更に飛頭に金を打って捕獲します。藤井竜王名人が角を4筋に飛び出して馬に当てると、服部六段は5筋に桂を打って王手し、後手玉を下段に落としてから馬を角と刺し違えます。藤井竜王名人が取られそうだった飛車で取ると、服部六段は3筋の金頭を叩いて上ずらせ、王手金取りに銀を打ち込みます。後手陣は金を剥がされると受けが難しく、金2枚に守られた先手陣を攻める足掛かりもなく、藤井竜王名人はここで投了を告げました。

2回戦のまとめ

本局は服部六段が「やってみたかった形」と言う研究手順で玉頭から激しく攻め掛かり、藤井竜王名人は早々に1分将棋に追い込まれる展開となりました。AIの評価値も揺れ動く難しい中盤戦となりましたが、服部六段は終始決断良く踏み込んで終盤まで持ち時間を残し、藤井竜王名人が繰り出す罠に的確に応じて寄せ切りました。
自身初の準決勝に駒を進めた服部六段は、対局後「勝てるイメージはあまりなかったので自分でもすごく驚いています」と謙遜しつつ、「ここまできたら(準決勝と決勝が行われる)有楽町でも良い将棋を指して、優勝できればと思っています」と力強く宣言しました。この日の2勝で歴代最高勝率の更新も現実味を帯びてきた服部六段に、今後も注目していきたいと思います。

朝日杯将棋オープン戦は、朝日新聞社と日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「朝日杯将棋オープン戦における棋譜利用ガイドライン」に従っています。 (https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#asahi_cup)

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