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高齢者介護で誤ったケアをしないために必要な医療知識
介護現場で質の高いケアを提供するには、介護に関する知識だけでなく、医療の基本的な知識も不可欠です。
介護スタッフは医療行為(医行為)を行なうことはできませんが、医行為に該当しない範囲のケアについては、しっかりと理解し、適切に対応できることが求められます。
ですが、医療や薬の知識は複雑で難しいと感じる方が多いかもしれません。そこで入門書として『医療知識&お薬 介護スタッフのための医療の教科書』(翔泳社)をおすすめします。
本書では介護で役立つ医療や薬の基本知識をわかりやすく解説し、高齢者によくみられる疾患や症状についても幅広く取り上げています。さらに、食事や生活習慣の注意点、医療職と連携する際に伝えるべき情報、口腔ケア・皮膚トラブル・感染症対策など話題となるテーマも詳しく説明しています。
今回は本書から「PART 1 介護に役立つ医療の知識」の一部を紹介します。医行為にあたらないケアの一覧も掲載しますので、日々の業務の参考にしていただければ幸いです。
◆著者について
介護と医療研究会(かいごといりょうけんきゅうかい)
介護・医療関係をテーマに編集・執筆を行うグループ。介護・医療雑誌の取材、執筆などを手がける。介護・医療関係者が在籍し、介護業界をよりよくするために意見を交わしている。
◆監修者について
川邉正和(かわべ まさかず)
大阪赤十字病院呼吸器外科を経て、2015年かわべクリニック開院。2018年東大阪プロジェクトを設立。『出会うことで、人が動き出し、ともに未来を変える ~穏やかなエンディングをみんなで~』をクレドとして、医療介護職に閉ざさない真の地域包括ケアシステム構築を目指している。
川邉綾香(かわべ あやか)
2005年より大阪赤十字病院勤務。終末期患者様が救急搬送に至った経緯を知るなかで、『最期まで住み慣れた自宅で療養できる医療』を目的に、2015 年にかわべクリニックを開院。すべてをコーディネートできる看護師の育成に取り組み、数多くの講演活動、ブログでの情報発信を行っている。
介護職の業務範囲が拡大し、医療や薬の知識が必要に
病気があっても自宅や施設で療養し、住み慣れた場所で最後まで過ごす人が増える中、介護の仕事の重要性は増しています。また、介護職の業務範囲が拡大し、一部の医療的ケア(特定行為)が行えるようになったことから、介護職にも医療や薬に関する知識がある程度必要になっています。
しかし、介護職はそうした知識を深く学ぶ機会が少なく、現場で戸惑うことも。「何となく知っている」というあいまいな知識のまま、ケアを行うことに不安を覚える人もいるでしょう。
医療や薬に関する知識は膨大ですから、介護職がすべてを理解する必要はもちろんありませんが、基本的な知識を押さえておくだけでケアの質は大きく向上します。
いま担当している利用者の病気をまず知る
医療や薬についての知識を身につけるなら、まずは利用者によくみられる病気や、介護保険の対象である特定疾病16種類を中心に、ポイントを押さえて知ることが大切です。
いま担当している利用者の病気について、原因や症状、治療法、飲んでいる薬の特徴などを覚えましょう。それらの知識は日々のケアで役立ち、医師や看護師など医療職との連携にも活きていきます。
誤薬や相互作用(飲み合わせ、食べ合わせ)、副作用の発見の遅れなど、知識不足が原因のトラブルは介護現場の課題にもなっていますが、介護職が利用者の病気に関心を持ち、基本的な知識を身につけることで確実に減らすことができます。
病気がわかるといろいろなことに気づける
例えば、糖尿病の人は、失明に至る「網膜症」、人工透析が必要になる「腎障害」、激しい痛みや壊疽につながる「神経障害」といった合併症に気をつけなければなりませんが、これらはすべて血流障害によるものです。血液中の糖質が血管の壁に悪影響を及ぼすために起こるのです。食事療法や運動療法、薬物療法やインスリン療法は、血糖値をコントロールして合併症を予防するために行います。
また、糖尿病の人は、血流障害のために傷が治りにくく、小さな足の傷が潰瘍になり、さらに壊死(組織が死んでしまうこと)へと発展して下肢の切断に至ることもあるのですが、それがわかっていれば、爪切りケアを注意深く行うことができます。靴ずれなどもすぐに医療職に伝えようという発想につながり、重要な症状を見落とさずにすみます。
口の中のトラブルがさまざまな病気の原因に
加齢とともに口の中も老化し、歯の摩耗、歯茎のやせ、唾液の分泌量の減少、あごや舌を動かす機能の低下などが起こります。その結果、さまざまな口のトラブルも発生。代表的なものが、むし歯、歯石や歯垢、歯周病、口内炎、舌苔、ドライマウスなどです。
また、よく知られている通り、口の中が不潔だと細菌が繁殖し、誤嚥性肺炎の原因になります。
それだけではありません。口の中にトラブルがあると、粘膜の抵抗力が弱まり、インフルエンザなどの感染症にもかかりやすくなるのです。さらに、脳卒中や心臓病、糖尿病などの病気を引き起こすこともわかってきています。
口腔ケアは高齢者の健康を守り、QOLを向上させる
口腔ケアには、自分で毎日行うセルフケアと、歯科医師や歯科衛生士などが行うプロフェッショナルケアがあります。介護職が援助するのはセルフケアの部分。歯ブラシを使って歯をすみずみまで磨いたり、スポンジなどで口の中の粘膜や舌をきれいにします。
口腔ケアがきちんと行われていると、寝たきりの人でもピンク色の粘膜がよみがえり、食欲が増したり、表情が明るくなったりします。
日々の口腔ケアに加え、歯石の除去や入れ歯の調整などプロフェッショナルケアが加われば、効果はさらにアップ。QOL(生活の質)が大きく向上します。
口腔ケアは、介護の基本理念である自立支援に結びつく重要なケア。生活リズムをつくるケアでもあるので、自立を促すためにも、できることはなるべく利用者本人にしてもらうとよいでしょう。
人体の仕組みやそのケアの目的、感染リスクを理解
2012年から、痰の吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレの内部)と経管栄養(胃ろうまたは腸ろう、経鼻経管栄養)が、一定の研修を修了すれば医療的ケアとして介護職も行えるようになりました。すでに実施している人も多いでしょう。
しかし、ケア実施中の急変、観察、医療職への情報提供や連携などで、不安を感じている介護職が少なくないという調査結果もあります。そうした不安をなくすには、正しい知識と手技を身につけるしかありません。
人体の仕組みや、何のためにそのケアを行うのか、実施にはどのようなリスクが伴うのかをまず理解しましょう。実施の際は、きちんと決まった手順で行うことが感染や事故の防止につながります。
介護職が行える「医療的ケア」は拡大傾向に
「医療」と「介護」の線引きは案外難しく、介護保険制度スタート後から、在宅療養の現場では介護職がどこまで行うのか議論が続いていました。そこで、厚生労働省は2005年に「医療行為でないもの」を通知。その7年後に、在宅介護の家族が日常的に行っている「痰の吸引」「経管栄養」という2つのケアが、介護職も行えるようになりました。
厚生労働省は、介護職のさらなる業務拡大を議論しており、介護職が行える医療的ケアは今後増えていくと考えられます。そうなれば、ますます医療の知識が求められるようになると同時に、医師や看護師などの医療職との連携も密接になっていきます。
「医行為にあたらないもの」とは
「医行為」とは、医師や看護師などの免許を持っている人が、「業」として行う行為のことです。法律(医師法第17条や保健師助産師看護師法)により、医師でなければ医業をしてはならない、また看護師でなければ療養上の世話や診察の補助を行ってはならないと定められています。
介護職が医行為を行うことはできませんが、在宅介護や施設介護の現場では、医行為とそうでないものが曖昧だったため、2005年に厚生労働省が「医行為にあたらないもの」を具体的に示しました。
医行為にあたらないもの
①体温測定
②半自動血圧測定器による血圧測定
③新生児以外で入院治療の不要な者へのパルスオキシメータの装着および動脈血酸素濃度の確認
④軽微な切り傷、擦り傷、やけど等について専門的な判断や技術を必要としない処置(汚物で汚れたガーゼの交換を含む)
⑤軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)
⑥湿布の貼付
⑦点眼薬の点眼
⑧一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)
⑨坐薬挿入
⑩鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助
⑪水虫や爪白癬にり患した爪への軟膏又は外用液の塗布
⑫吸入薬の吸入及び分包された液剤の内服の介助
⑬爪切り、爪やすりによるやすりがけ
⑭口腔ケア、有床義歯(入れ歯)の着脱及び洗浄
⑮耳垢の除去(耳垢塞栓の除去を除く)
⑯ストマ装着のパウチにたまった排泄物の廃棄(肌に接着したパウチの取り替えを除く)
⑰自己導尿の補助
⑱市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を用いた浣腸
⑲インスリン投与の準備、片付け
⑳持続血糖測定器のセンサーの貼付と血糖値の確認
㉑経管栄養の準備、片付け
㉒経鼻胃管栄養チューブを固定するテープの貼り替え
㉓喀痰吸引の補助
㉔在宅酸素療法の補助
㉕膀胱留置カテーテルの蓄尿バッグからの尿廃棄、尿量および尿の色の確認、チューブを固定するテープの貼り替え、医師・看護師管理下での陰部洗浄
㉖とろみ食を含む食事の介助
◆本書の目次
PART 1 介護に役立つ医療の知識
医療と薬の知識が介護職にも求められる
医療と薬の知識をよりよい介護に生かす
とても大事な感染症予防の知識
全身の健康につながる口腔ケアの効用
「医療的ケア」を安全に行うための知識
知っておきたい急性疾患と慢性疾患
緊急時の対応と看取り
Column 「医行為にあたらないもの」とは
PART 2 介護職が知っておきたい薬の知識
薬の基礎知識
薬が効く仕組み
薬の正しい使い方
思わぬ副作用が出ることも
飲み合わせと食べ合わせ
処方されることが増えている漢方薬
効果的な薬物療法のために
服薬介助のポイントと注意点
湿布の取り扱いと注意点
飲み忘れ対策と飲み忘れたときの対応
薬剤師との連携
OTC 医薬品とサプリメント
Column セルフメディケーション
PART 3 高齢者によくみられる疾患
人体の構造と仕組み
消化器疾患、呼吸器疾患、感染症疾患、循環器疾患、代謝・内分泌疾患、脳神経疾患、精神疾患、骨・関節疾患、その他の疾患、腎・泌尿器疾患、皮膚疾患、感覚器疾患、がん疾患、高齢者が気をつけたい症状
Column 老衰でなくなる人が増えている
巻末資料 知っておきたい医療用語
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