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知識社会に適応したハイパフォーマンスな夫婦同士で子供を作ると自閉症の子供が生まれてくる確率が高くなる

本を読んでいて、これはいかにもそうらしい話だなと思うものがあった。

自閉症の子供が急増しているのはなぜかということについてで、その本では、自閉症の子供が発生しやすい遺伝的性質を持つ男女が同類交配によって子供を作るケースが増えたことで、両親以上に強くその性質を持った、自閉症と診断される子供が多く生まれてくることになったのではないかという説が紹介されていた。

発達障害的な性質は優性的に遺伝するらしいけれど、インターネット上の記事なんかを読んでいる感じでは、世間一般的には、発達障害傾向のある子供が年々増え続けているのは、昔は発達障害傾向がそれなりにあっても発達障害と診断されなくて、近年は発達障害について知られるようになったことで、放置されずにそういう診断を受けるケースが増えているからというのが大きいというような語られ方が一般的なのかなと思う。

けれど、俺はずっと、多くの人が診断を受けるようになっただけで、昔から同じくらい発達障害の人はいたというのは、どうにも無理のある物言いなんじゃないかと思ってきた。

男性が高齢であるほど生まれてくる子供に発達障害の傾向がある可能性が高くなるというのはあるようだし、そうすると、社会全体の晩婚化によって、生まれてくる子供にそういう傾向がある比率が昔より上がっているというのはあるのだろう。

ただ、それにしたって、その人の遺伝子が加齢によって劣化するからとか、そういうことなのかもしれないけれど、それ以前の問題として、高齢になるまで結婚できなくて、高齢になってやっと子供を持つ男たちというのは、若い頃に結婚して若いうちに子供を持つ男たちと比べて、変わっていたり、人付き合いが不器用だったりする人の比率が高いのだろうし、そうすると、単純に高齢の男のほうが子供が発達障害が多いのは、高齢で子供を持つ男たちのほうが発達障害傾向を強く持つ人たちが多いから、その遺伝的な性質がそのまま子供に遺伝しているだけだったりしているんじゃないかとも思える。

そして、そういうことを思ったときに、高齢になるまで結婚できなかったような発達障害傾向があるような男と結婚する女の人たちというのも、早く結婚して子供を作る男と一緒になる女の人たちよりも、発達障害傾向が強かったりしているんじゃないかとも思っていた。

子供が発達障害だった母親のコミックエッセイみたいなものを読んでいると、母親自体がちょっと普通じゃない感じの人である場合が多いし、そこに出てくる旦那も、わかりきったことは話せても、人の気持ちを伝えられてもまともにそれに反応できないようなタイプであることがほとんどだったような印象がある。

発達障害だと診断を受けていなくても、発達障害傾向がそれなりにある人たちというのは、途轍もなくたくさんいるのだと思う。

共感性の面で典型的に定型発達したタイプの人だと、他人が近くにいると自動的に漫然と他人の気持ちの動きを感じ取ってしまって、意識していないと、自分がどう思うかということは特にないまま、相手がそんなふうであることだけしか意識にないまま、とりあえず同調ベースで相手に反応してしまうとか、それほどまでに、周囲の空気に溶け込むことが生きている実感そのものに感じられるような肉体で生きている感じになっているのだと思う。

そういう定型発達度合いの高い人たちからすると、明らかに自分たちよりも一線を越えて共感性が低い人たちというのはごろごろしていて、本当に発達障害のグレーゾーンというのは広い範囲に広がっているんだなと日々思っていたりするのだ。

少なくても、俺としては、そんなふうに、発達障害はそれなりにあからさまに遺伝でそうなっていることなんだろうなと思ってきたのだ。

時代の変化ということなら、医療や栄養や衛生などの面での生活水準の向上によって、昔より乳児死亡率が下がったとして、早産・低出生体重児は発達障害や精神疾患の合併リスクが高いとかという話もあるのだし、昔より死ににくくなったタイプの子供たちには発達障害傾向を持った子供たちが多く含まれていたからというのもあるのだろう。

それ以外でも、昔より危険な遊びをしなくなったことで、小さい頃に池とか川とか海とか山で死んでしまう子供が減ったのだろうけれど、発達障害の中には、運動が苦手だったり、身体を思ったように動かすのが苦手なタイプの人もいるようだし、昔みんなと一緒に遊ぼうとしていて事故死してしまっていた中にもかなり多く何かしらの障害の傾向があった子供たちがいたのだろう。

そんなふうに思っていたから、俺にとっては、発達障害が優性遺伝なら、近年になって発達障害が増えているというのも、急激に増えているのはどうしてだろうとは思いつつ、増えること自体はそれなりに自然なことに思えていたのだ。

そうやって、単に昔より医療的な診断を受ける子供が増えているだけだと言いたがっている人たちのことを胡散臭く思っていた中で、読んでいた本で、やっぱりそういうことなんだなと思えるような話にでくわしたのだ。


その本では、高度知識社会で成功できるような知能を持つ人たちの子供には自閉症が多いという話から、それが両親とも似たタイプの知能の高さを持つ同類で交配されたこと子供だからそうなっていて、その種の知能の高さと自閉症が発生する因子が強く結びついているのではないかと類推する説が紹介されていた。

 天才的な数学者で、ヘッジファンド「ルネッサンス・テクノロジーズ」の創業者として莫大な富を築いたジェームズ・サイモンズと、計量経済学者である妻マリリン・ホーリスの間には自閉症の娘がいる。スティーブン・ホーキングには自閉症の孫がいるし、イーロン・マスクにも自閉症の子どもがいる。このような例をあげてバロン=コーエンは、成功にはトレードオフがあると述べる。
 シリコンバレーの富豪たちを見ればわかるように、高度化する知識社会では、並外れた論理・数学的知能とイノベーションの能力には巨大な価値がある。だがハイパー・システム化した脳タイプをもつ者は、「自閉症の子どもを生み出す可能性が極めて高い」のだ。

橘玲「テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想」文春新書 p.69-70

ここでは自閉症を発症する子供が生まれるというところから論じられているけれど、自閉症にもグラデーションがあるし、自閉スペクトラム症(ASD)の中に自閉症があるのだし、発達障害的なもの全般が似たような感じに遺伝するとイメージしても不自然ではないのだろう。

 アメリカの調査では、自閉症の発症率は一般人口の1~2%だが、もっとも裕福な330家庭のうち27家庭(約8%)に自閉症の子どもがいた。MIT(マサチューセッツ工科大学)の同窓生のあいだでは、自閉症の発症割合は10%にも上ると囁かれている。
 この話を聞いたバロン=コーエンは、MITの卒業生にアンケートを送り、自閉症の子どもの割合を調べようとした。同窓会は同意したものの、MITのブランドが傷つくことを恐れた学長命令によって調査は中止になったという。
 そこで代わりに、「オランダのシリコンバレー」と呼ばれ、工科大学とハイテク企業のあるアイントホーフェンを対象に調査が行なわれた。1万人あたりの自閉症の子どもの数は、人口が同規模のユトレヒトでは57人、ハーレムでは84人だったが、ハイパー・システマイザーたちが集まるアイントホーフェンでは1万人あたり229人の自閉症の子どもがいた。
 これらの調査からバロン=コーエンは、自閉症の子どもが急増している理由のひとつは同類交配(アソータティブ・メイティング)だと推測している。学歴社会ではシステム化能力に恵まれた者同士が大学やハイテク企業などでますます出会いやすくなり、彼らの間に多くの子どもが誕生する。「高く調整されたシステム化メカニズムは卓越したマインドを生み出すことができるが、さらに高いレベルに達した場合に、学習障害として現われる可能性がある」のだ。

橘玲「テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想」文春新書 p.70-71

たしかに、昔は発達障害傾向がありつつも高機能で社会的に成功した男がいたとしても、世間的に評価の高い女性として、人当たりのいい気の利く奥さんをあてがわれていた場合が多かったのだろう。

昔であれば、世間的に結婚相手として価値の高いとされる女性は、何かしらに抜きん出た技術や能力を持っている女の人というよりも、世間的によい女性とかよい奥さんとされるイメージをうまくなぞって、一緒にいる人に安心感を与えられる人ということになっていたのだろうし、そうすると、発達障害的な傾向が強い人は、高機能な人が世間が求める女性像を擬態するわけでもないかぎり、みんなが羨むような女性とはならずに、優先的に成功者に嫁がされることはなかったのだろう。

もちろん、今だって、成功した男が、自分と似たような何かに秀でた相手ではなく、みんなが羨むような女の人を妻にしようとするケースは多くあるのだろう。

けれど、自分で恋人や配偶者を選べる人は気の合う人を選ぶようになったのだろうし、時代が進むほどに情報化されていく社会の中で成功した自分と気の合う、自分に刺激を与えてくれるような相手となると、その相手はどうしたって大学やビジネスの場で出会う、人並みよりはっきりと賢い変わり者ということになる場合が多くなるのだろう。

そして、恋愛結婚が当たり前になって、気の合う変わり者同士で結婚するケースが増えたのは、そこまで優秀なわけではない、社会的に特に成功もしなかった人たちも同じなのだ。

そもそも、昔の世の中だと、発達障害的傾向を強く持って生まれている場合、今よりもはっきりと高機能で優秀でないと、成功したり、家族を持てるような暮らしができなかったというのもあったのだろう。

発達障害傾向がそれなりに強くても、安全になった社会で比較的容易に生き延びられるようになって、情報社会になって活躍しやすい仕事も見つけやすくなって、なんとなく気の合う相手と結婚して子供を作れるようになったのだ。

特別高機能なわけではない発達障害傾向を持った人たちにしろ、状況は昔から大きく変わっていて、昔よりも自分と似たような人と結婚して、自分たちの薄くはない発達障害傾向をより濃く引き継いだ子供を生んでいるケースがたくさん発生していると考えるのが自然だろう。

そう考えても、発達障害の子供が近年になって急激に増えてきているというのは、ただ診断を受けるケースが増えているだけではなく、実際にそういう傾向を色濃く持つ子供が急激に増え続けているというのが本当のことになるのではないかと思ったのだ。



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