元木大輔/DDAA LAB『スツールの改変可能性』は文章がアツいです。
元木大輔/DDAA LAB『スツールの改変可能性』です。
京都市京セラ美術館で直接見ることができたDDAA LABによるスツール60のハックプロジェクトについて、分厚いブックレットに完成版の写真とスケッチがまとめられています。写真もイラストも完成度高くて最高だったので本の形で家に置いておけて嬉しいですね。
またこの本に載ってる文章も、どれも最高でしたね。今回は「文章がよかった」というのがメインの感想文です。
最初は元木さんのハッカビリティという概念や、本プロジェクトについて、マスターピースに対する思いのステートメント文。引用したアアルトの「集中型規格」と「分散型規格」の概念とか、スツール60はプロダクトとしての完成度も高いがそれと並行して「原っぱ性が高い」とか、クリエイティブの思考におけるパンチラインが連発。この文章の現代性に共感しつつ、改めてスツール60の完成度に驚く。DDAA LABがこんなに手を入れ展開していっている(それを受け入れている)のに、それをパラパラとページをめくり眺めてもアイデンティティは強固。もちろん手の入れ方が美しい、というのも理由のひとつなんだけどね。
次の文章では実際にこれらを形にした甲斐貴大さんと元木さんの対談。完成された作品を眺めるとどれも明快でコンセプチュアルなビジュアルで、ひと目ディティールがないように感じてしまうかもしれない。また重さや素材感なども感じられないかもしれない(079 soft toyなどを見たらその自分の近視眼に自覚できる)。でも当然そんなことは無く、ここではアイディアを実現するための発想やスタディ、工法など工夫が語られる。これらは「マスターピースとしめのスツール60をプラットフォームに置き換えるための実践的工夫」ですね。「脚のL字部分の91°を90°に戻す」とか、自分のNC工作機械を改造したりだとか、変態的な工夫が語られる。そんな中で2人のお気に入りの作品が何番か語られたりするのも良い。
その次はアイディアスケッチを担当した角田和也さんと元木さんの対談。これもまたフィジカルな話が続いて面白い。このスケッチの可愛さって本プロジェクトの質感の重要な要素で、デザインを専門としていなくても「スツールの改変可能性」を明快に伝えることに成功していますよね。知性と平熱さを感じるスケッチですが、対談に合わせて実際に採用されなかったアイディアを見たりすると確かになんやねんコレと笑ってしまうアイディアがあってより好きになった。このプロジェクトの共感したプロセスに「アイディアを出すことには方法論があって、今回は出したアイディアをタグで分類し、ボリュームや偏りを確認して展開した」というのがあったんだけど、そのタグの中に「深夜のノリ」があるのが最高。大事ですよねホント。2人でスケッチを見ながら「この辺疲れてたのかな」とか言ってるの笑えます。この辺また見返すと発見がありそう。
最後に法学者の水野祐さんとの対談。これも学びが多いですね…アイディアや製品における特許と、オープンソースと、意図的なクローズと、どれもデザイン分野でしかないな…と強く感じさせる。元木さんのデザイン思考である「クリエイションをひとつの価値観に収束させるのは避けたい(だけど全体感は保ちたい)」という思いと、知財関係(アイディアをどの程度開放するか)ってセットですよね。DDAA LABにはこんな本ばっかり一生作ってて欲しい(おれもやりたい)けど、こんなラボをどうサステナブルに経営するかという点にも、この知財関係の取り扱いが関係してきそう。
これら上記の文章、①思考、②工法、③発想、④コントロールとなる訳だけど、どれもアイディアを形にするためのキーになるポイントですよね。そのヒントが濃密に詰まった文章でした。写真とスケッチはね、楽しく易しく読めるんですよ(美しいからね)。一方文章は思ったよりハードです。これはこれで楽しいんです。文章では当然あらゆる作品を何度も参照して、ページをパラパラめくりながら読むわけですが、こうやって読むことで写真やスケッチの味わいや見え方が変わってくる、そういう味付けの本です。だから多分何度か読んだらまた違う見方が出来るんだろうね。保存版です!
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