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科学的な視点、思考を培うことの重要性と処理水問題

高等学校で学ぶことの多くは、現代社会を紐解くのに非常に重要な道具となります。

昨今、一部の活動家が問題視しているのが福島第一原発のALPS処理水の海洋放出問題です。

まず、大前提として私は海洋放出という政府の方針に賛成であり、ALPS処理水は安全で問題がない、と考えています。

この記事はその考えに納得する人や現在の時点で判断がつきかねている人を対象にしたものです。

逆に、ALPS処理水は危険で海洋放出などけしからん、というスタンスの人はここから先を読まないようにしてください。
(おそらく不快な気持ちにしかならないでしょう。)




















ALPS処理水とは何か

今回話題になっている「ALPS処理水」とは東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性物質を含む水にのことです。

そして「処理水」という言葉の通り、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです。

詳しい説明は上の経済産業省のHPにある動画を見てください。

トリチウム以外の物質、とは具体的にはセシウム137やストロンチウム90のことです。

これらは放射性物質ですが、基本的に化学的な手段で分離することが可能です。なぜならばあくまでも水とは異なる別の物質だからです。

しかし「トリチウム」は人為的に分離することが非常に困難です。

「トリチウム」と水分子

通常の水分子は水素原子2個と酸素原子1個が結合して作られます。

この水素原子は当然ながら放射性物質ではない普通の原子です。

一般的な水素原子は原子核が陽子1個のみで構成されています。これに対し同位体として原子核が陽子1個、中性子1個のもの重水素と呼びます。そのため一般的な水素をこれと区別するために軽水素とも呼びます。

重水素よりもさらに2個中性子の多い同位体、放射性同位体(ラジオアイソトープ)がトリチウム(三重水素)で、このトリチウムが水素(軽水素)の代わりに水分子の原子として結合したものがトリチウム水と呼ばれます。

このトリチウム水は普通の水と基本的には全く同じ性質を持っていますが、放射線を発するという点で異なります。

しかしその放射線(β線)も周囲の水分子にぶつかってしまい、人体に影響を与える量になることはほとんどありません。

トリチウム水は人間の人為的な力が加わらない自然界にも存在しており、海水中にも含まれ、その量は数Bq/L(ベクレル毎リットル=1Lあたり数ベクレル)と言われています。

今回日本政府が海洋放出するALPS処理水は1500Bq/Lと言われており、海の水の1000倍近い濃度となっています。

しかし海水の量を考えれば、1000倍の濃さであっても一瞬で薄まることは誰が考えても明らかであり、海洋放出で影響がないことは言うまでもありません。(そもそもさらに100倍に希釈して放出する)

総論で言えば、この濃度、分量を放射が海洋生物や人体に与える影響はほぼゼロ(完全にゼロという概念は自然界にはありえない)と言えます。

著名人のスタンス

正直なところ、私のような一個人、しかも高校教員の意見だけでは客観性や信頼性が乏しいと考える人もいるでしょう。

そこで代表的な著名人の主張を上げていくことにします。

ALPS処理水に対して問題がないとするスタンスで有名なのは大阪大学理学部物理学科教授の菊池誠氏です。

氏はSNS(X=旧Twitter、noteなど)での発信も多く、舌鋒鋭いことで知られています。

このnote記事は非常に参考になるでしょう。

またホリエモンこと堀江貴文氏も処理水を騒ぐ人達に対して警鐘を鳴らすコメントを出しています。

一方で処理水放出に対して反対を主張する芸能人やインフルエンサーも存在します。

歌手のうじきつよし氏を見かけました。

落語家の立川一門も同じ系統のようです。

これらの人の特徴は日本政府を信頼できないから、発表の数値は怪しい、と考えている点です。

しかし、非常に感情的な意見が多く、化学物質の性質などに関しての無知が目立つ人達でもあります。

科学的な理解の重要性

まず現段階で判明していること、政府の公的な情報開示やプレス発表などを見る限りでは、ALPS処理水の海洋放出に関して健康被害が出ることは限りなく低いと言えます。(科学的な正確さを厳密にするとゼロではない)

政府が信用できない人々がいるようですが、IAEAや国連など世界の国際機関を入れて出している数字である以上、公式発表されたものを頭から否定することは難しいでしょう。

つまり、反対している人の根源的な問題は「感情」の問題です。

しかも、科学的に正確な事実、化学的な裏付けなどを読むこと、理解することが出来ずに感情論に走っているケースがほとんどです。

もちろん、過去の環境問題、それ以外の経済政策や雇用対策の失敗を見ると日本政府の動きに信頼を持てない人も存在するでしょう。

しかし理由自体はあくまでも個人の感想、印象、心象、思い込みであり、科学的な考察はなされていない、というものがほとんどなのです。

学校の勉強の重要性

こうした動きを追っていくと、学校の勉強の重要性をまざまざと見せつけられます。

これは勉強ができる、高得点を取れる、難しい大学に合格した、ということの指標としての価値の話ではありません。

科学的な知識や思考法を得るためのカリキュラムとして非常によく練られた仕組みである、ということです。

事実、これらの資料や発表を読むにあたり必要な知識の大半は高校の教科書に載っているものが大半であり、それ以上のことはほとんど必要ありません。

仮に不足があったとしても、そこまでの前提知識で苦も無く追加できる程度の分量です。

放出反対派の揚げ足を取りたいわけではない

私は処理水に関して反対の立場の人たちを責めているわけでも非難しているわけでもありません。

彼らの感情的な反感や嫌悪感を全て否定できるとも思っていないし、直感的な不安に対して全く共感ができないわけでもないからです。

しかし、それらを払しょくするのはエコーチェーンバー化した同胞のつぶやきではなく、科学や化学の正しい知識です。

少なくとも現時点で上がっている情報では日本政府の海洋放出という決定を非難する証拠は乏しく、科学的な根拠は薄いという前提で話をすべきだ、ということなのです。

例えば諸外国の反発による貿易制限への懸念(それも他国の駆け引きのテクニックでしかないのですが)などを反対や批判の理由にすべきではないでしょうか、

今回の件で不安に思っている人、きちんと向き合ってみたい方は是非とも中学理科から高校化学をしっかりと勉強し直してみてください。

自身のスタンスを決めるのはそれからでも遅くないはずです。

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