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藤井聡太八冠をダシに使う教育系情報サイトの気持ち悪さ
藤井聡太名人、八冠制覇
藤井聡太名人は今月11日に王座戦を制し、前人未到の八冠を達成したのは記憶に新しいところです。
こうした偉業を成し遂げた人物が出てくると、その人が受けた教育法などを評価する動きが起こるのは世の常です。
藤井名人の場合はモンテッソーリ教育がそれにあたるようです。
今回もまた、同じようなことがネット上のいたるところで見られます。
モンテッソーリ教育とは
モンテッソーリ教育とは20世紀初頭にイタリア初の女性医学博士マリア・モンテッソーリによって考案された教育法のことで、詳しくは以下のリンクを参照してください。
簡単にまとめると、発達段階に応じて子供の能力を高める教具や設備を整えることで、子供が自発的に能力を高めるという思想の下に、それを生かす教具や指導法(正確には大人が指導はしないらしいのですが)に沿った教育のことです。
日本中にモンテッソーリ教育を導入している認定こども園などの教育施設が存在します。
藤井聡太名人の偉業とモンテッソーリ教育に因果関係は薄い
モンテッソーリ教育に実際にどの程度効果があるのかは不明です。
ただ、モンテッソーリ教育を推進する人たちは以下のような著名人がモンテッソーリ教育を受けたということを主張しています。
藤井聡太 四段(日本将棋連盟 棋士)
ラリー・ページ(Google創業者)
セルゲイ・ブリン(Google創業者)
ジェフ・ベゾス(Amazon創業者)
マーク・ザッカーバーグ(Facebook創業者)
ジミー・ウェールズ(Wikipedia創業者)
P.F.ドラッカー(経営学者)
バラク・オバマ(米国大統領)
クリントン夫妻(元米国大統領と国務長官)
ウィリアム王子とハリー王子(英国王室)
アンネ・フランク(アンネの日記)
ガルシア・マルケス(ノーベル文学賞作家)
こうした人たちが為した功績にモンテッソーリ教育がどの程度貢献したのか定量的な測定は不可能です。
この例から分かるのは現代の偉人たちの中にモンテッソーリ教育を受けた人がいるということだけです。
よく考えればこれらの人達が例に上がるということは、これら以外の多くの名だたる偉人はモンテッソーリ教育以外を受けた、ということを意味します。
さらにうがった見方をすれば、モンテッソーリ教育を選択的に受けさせることができるほど幼児教育に熱心な家庭に生まれた、という見方も可能なわけです。
私は専門外ですのでモンテッソーリ教育自体を批判する立場ではありませんし、その是非を議論するつもりもありません。
ただ、事実として因果関係を証明するような説明は全く存在しない、ということです。
(モンテッソーリ教育によって創造性や独立心を高めた結果だ、という主張は無意味です。他の教育よりもそれらを定量的に高めたというエビデンスが必要です。また、モンテッソーリ教育から着想を得た教育法を実施している教育機関は相当数存在しています。)
教育産業のトレンド
似たようなものとしてシュタイナー教育やレッジョ・エミリア、イエナプランなど複数存在しており、少子化とは対照的に富裕層の教育熱を利用したビジネスは大流行しています。
今回の藤井八冠の偉業もさっそく利用しているサイトを見かけました。
こうしたサイトは藤井聡太さんが最年少棋士となった2016年あたりからちらほら見かけていました。
今回は八冠達成を待ちに待った形で時流に乗った記事をリリースしたのでしょう。
モンテッソーリ教育自体は否定しない
繰り返しになりますが、私はモンテッソーリ教育自体を否定していませんし、何らかの肯定的な成長が促される可能性のある教育法の一つなのだと思います。
ただ、それ以外の教育技法もまた同様に子供に様々な成長の可能性を引き出すものであり、モンテッソーリ教育をことさらに礼賛するつもりはない、というだけです。
しかし、今回のように偉人が偉業を為す度に、彼らが受けた幼児教育をその偉業の理由として子供の教育法に悩む保護者の耳目を引くようなサイトや広告を作ることは、あまりにも品が無い行為のように感じます。
もちろん偉人たちがその教育を受けて成長したのは事実です。
しかし例えば藤井八冠がモンテッソーリ教育でなければ棋士になれなかったり、七冠で終わったりしたかどうかは誰にも証明できません。
少なくとも教育関係者ならば、誰それがこの教育を受けた、ではなく、こうしたエビデンスが存在し実際に効果が定量的に測定できている、という形で記事を書くべきではないでしょうか。
それは専門家としての最低限のモラルだと思います。