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教員をまた酷使?部活顧問の『時給1600円』の現実
熊本市、中学部顧問報酬支払いへ
先日、熊本市は中学校の部活顧問に対し報酬を支払うというニュースが報道されていました。
部活顧問には1600円、副顧問は千円の時給を支払う方針。2024年度中に正式決定し、27年度中の実施を目指す内容で、市教委は「全国に先駆けて地域との連携の具体的な方針を示した」としている。
時給にして1600円、副顧問には1000円を支払うという話です。これは一見すると画期的な部活動顧問問題の解決策のように見えます。実際熊本市教育委員会もそう自賛しています。
市教委は「全国に先駆けて地域との連携の具体的な方針を示した」としている。
では実際のところ、これが解決への一手に繋がるのでしょうか。
喜んで引き受ける指導者は少ない
まず1600円という時給について考えます。熊本市教育委員会は以下のように発表しています。
希望する教職員に加え、大学生や会社員ら計約1600人が部活動を指導すると想定。
しかしどう考えてもこの時給は明らかに教員をあてにした設定額でしょう。
他業種の人間が1600円、2時間、週3日の顧問を引き受ける可能性は低いのが現実です。なぜならば時間的に部活動の時間に間に合う必要があること、また生徒の管理業務なども行う必要があること、さらに遠征などで休日をつぶす可能性があることを考えれば、この金額で働きたいのはよほどのもの好きか、あるいは何らかの別の意図があるか。少なくともまともに指導者を雇うことを想定した金額とは思えません。
副顧問に至ってはコンビニバイトよりも時給が低いレベルです。シフトの自由が利くアルバイトよりも安く、しかも責任を負わされる仕事を誰が好んで請け負うのでしょうか。
結局のところ、教員からの「希望者」という名の半強制によって部顧問を押し付ける地獄絵図が繰り返されるのは目に見えています。しかもこれまでよりも悲惨なのは時給が出るという変化から、責任を持て、拒否するなという圧力がさらに増し、引き受けない教員を村八分にする空気感が今以上に強まることでしょう。
スポーツの指導を舐め切った教育委員会
予算の額や生徒負担から割り出した、というのがこの時給1600円なのでしょう。しかし現実問題としてそれなりの人数に対し、安全に配慮しながら継続的なスポーツの指導を行う人間が受け取る報酬としては全く不足しています。
この事から見えるのはスポーツの指導そのものの価値を低く見て、指導者の社会的地位を見下しているのが熊本市教育委員会の体質なのではないか、ということです。この金額を見るとどう考えてもそうとした考えられません。
子供の居場所を云々を理由にして安く教員を使い倒してきたが、それが難しくなったため、駄賃を渡して教員を黙らせておけば解決するだろうという悪意しか読み取れないのが現実なのです。
次年度の採用試験倍率
本年度の熊本市の教員採用試験は定員を割り、追加募集を複数繰り返すことでどうにか治まったニュースが先日流れたばかりです。
この低倍率の原因が部活動顧問の問題にあることは明らかです。事実、熊本「県」の教員採用試験は熊本市ほどの低倍率にはなっていません。
通常であれば県庁所在地、かつ政令市の熊本市の方が人気が出てしかるべきにも関わらず、です。今回の発表と今後の熊本市の部活動の方針が次年度以降の採用試験の倍率に影響を与えることは必然でしょう。しかも下方修正をする方向に与える影響力は相当なものがあるのではないでしょうか。
受益者負担原則を考えるべき
現状に関して、まずは部活動を無償で学校が行う行政サービスであるという認識を改める必要があるでしょう。特に社会保障費の負担が右肩上がりに増加する現代においては現実的な費用負担の話を避けることは難しいでしょう。
またコンプライアンスや労働者の権利確保と労働法規の運用がようやく適正化されつつある現代において、教員を無償で使い倒すモデルはもはや限界でしょう。
そもそもスポーツなどの習い事が無償で受けられていたということ自体が極めて歪な社会である証明ですらあったのではないでしょうか。ピアノや算盤には月謝を支払っているのに、野球やサッカーには払わないでよいというロジックが通用していたことが間違いなのです。
もはや受益者負担の原則から逃げることは許されないでしょう。
具体的にはプロの指導者を専任で雇う方向へ舵を切るべきです。その費用としても2時間×週3回×4週=24時間と考えれば最低でも月額1万円以上の負担をすることは受け入れるべきではないでしょうか。
採用試験の倍率低下は止まらない
これまでの無償で部活動というサービスを享受できたという状況が教員の労働力を搾取して成立していた異常なサイクルに過ぎなかったのです。あたかも帝国主義国家がアジアやアフリカを植民地にして豊かな社会を築き上げていたのと同じように、です。
その現実から目を背け、現場教員に今なお負担を押し付け続けようとする熊本市の教育委員会の姿勢が変わらない限り、採用試験の受験者の減少は止まらないのではないか、と危惧するのです。