【題未定】ワンドリンクの裏事情:法律が支配するライブハウス【エッセイ】
先日、SNSを眺めているとライブハウスのワンドリンク制に関して不満であるという旨のポストが流れてきた。それに連なる返信、またさらに詳しく調べてみると、どうやらライブハウスのライブこそがおまけであり、法律上はドリンクの方が主であるとのことだ。
一般的にはワンドリンクは施設側の利益に直結し、施設利用料として存在するのだろうと思われがちだ。ところがワンドリンクを注文しない客がいる場合は法律上問題があるようなのだ。なぜならば、ライブハウスのほとんどは食品衛生法に基づく飲食店として営業許可を受けており、客が飲食をする場所を提供しているということになっている。ライブはあくまでも「おまけ」であり、あの場所は飲食の場であるということなのだ。当然ながら飲食店において注文をせずに1時間も2時間も席に居座る客が存在するのは不自然であり、席を提供するのは注文をした客だけである、ということなのだ。
こうした状況には理由が存在する。ライブのような興行を主に行う施設を設置する場合、「興行場法」上の「興行場」として認められる必要がある。「興行場」とは演劇や歌唱などの演目を客に見せる場所のことを意味する。劇場や映画館などがこの例にあたる。この「興行場」の設置基準は都道府県によって定められているのだが、トイレや換気設備に関して細かな規定が存在し、雑居ビルのワンフロアなどではクリアすることが難しい基準となっている。そのために店側はあくまでも飲食店として許可を受け、飲食の「おまけ」としてライブが存在するという建前になっているようだ。
こうした法律の抜け道、抜け穴は現代においても複数存在する。例えばスナックと呼ばれる夜の店もまた食品衛生法上は飲食店である。また「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」に基づき、深夜酒類提供飲食店営業の許可を得ることで0時以降の酒類の提供の許可を受けている。そしてこの深夜酒類提供飲食店は「接待」を行うことができない。具体的には客の隣に座って談笑相手となるなどの行為ができないということだ。したがってスナックにおいては原則、カウンター越しに飲食を提供する、という形をとることになる。
一方でキャバクラやホストクラブといった店舗は風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)上の「接待飲食等営業」にあたる。「風俗」と聞くと卑猥な店舗であるように想像する向きもあるだろうが、いわゆる夜の店やパチンコなどの遊技場も対象にした法律である。この「接待飲食等営業」は深夜0時から午前6時までは営業をしてはいけないとされているため、基本的にこれらの店舗の営業時間は深夜0時までとなっている。しかし多くの店では閉店時間を「LAST」などと表示して、0時以降も看板を消して営業する店舗も存在する。
パチンコの三店方式などはそうした例の典型かもしれない。賭博行為は刑法で禁じられているが、景品を出すこと自体は認められている。そこで特殊景品を出玉と交換し、その特殊景品を買い取る店舗が偶然にもパチンコ店に隣接する場所に店舗を構えているという具合だ。
今回知ったワンドリンク制にしても、それぞれの界隈ではあまりにも当然な話ではあるだろうが、冷静に考えれば倫理、道徳的に決して褒められた行為、慣習であることは間違いないだろう。しかし、こうした法律や制度の抜け道、抜け穴というのは非常に面白くも感じる。
そこには法制度の限界や運用における理論と現実の違い、そして庶民の逞しさなどが表れている。こうした制度が存在することを嫌悪する人もいることは容易に想像できる。しかしこれを法的にぎちぎちに縛り上げたとして、果たして得るものはあるだろうか。そこには清廉でしかし面白みのない世界しか残らないのではないだろうか。
法律という無味無臭な世界に、人間という生きた存在の強い臭気を感じさせるのがこうした事象なのではないだろうかと思うのだ。