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推薦や総合型選抜の増加と大学生の学力低下

受験業界では周知の事実だったことなのですが、大学入試の成績と入学後の成績、特にGPAなどには相関がさほどない、ということが知られています。

また、場合によっては後期日程の受験者などは他の選抜よりも入試学力的に優れているにも関わらず、成績の低迷が見られるなどの結果も得られているようです。

教員の肌感覚と実際の結果

私立の高校の場合、卒業生が大学入学後も報告に来てくれることが多々あります。

その生徒や同じ大学に行った生徒の話も含めて話を聞くことで、同じ学校に何年も勤務するとかなりの数の生徒の卒業後の様子を聞くことができます。

その肌感覚からすると納得の結果ではあります。

大学での生活や成績が順調な様子を聞く生徒は、圧倒的に第1志望に進学できた生徒という感覚です。

国公立大学で言えば推薦や前期日程、私立大学の場合は推薦・AO(総合型)での進学者です。

かたや、国公立大学や私立大学の後期日程での合格者はなかなか大学生活に前向きになれないようです。特に大学1年生のときにその傾向が顕著のように感じています。

受験業界に未だ残る抵抗感

受験業界においては、一般入試こそが真の学力であり、教科学習の得点で合否を分けるのが極めて妥当である、という意見はいまだに多いようです。

確かに、五教科を教えている立場としても自身の存在意義にもつながります。

従来型の塾や予備校の立場からしてみればなおさらでしょう。

そもそも私たち教員側も一般入試の学力試験を受けて合格した人間が多数を占めています。

私が大学入試を経験した20年前においては一般入試以外の受験は超マイノリティだったためです。

多様化する入試形式と全体に占める割合

実際ここ数年での推薦や総合選抜(AO)の伸びは顕著で、私立大学はすでに一般入試以外の入学者が多数を占めています。

国公立大学においても令和2年で2割、この傾向はさらに進んでいます。

また、いわゆる高偏差値大学でも推薦入学は増加傾向で、早稲田大学は6割を目指すとの報道もあります。

関心や意欲を合否の判断に入れる妥当性

「大学生の学力低下」などを旗印に、この手の改革に反対を示す人は多いようです。

たしかに、一般入試型と比較して入学時の五教科試験の結果は確実に下がります。

しかし、問題なのはそれを「学力」と定義できるかどうかです。

現在の大学や社会における能力の基準は、コミュニケーション能力や関心、意欲、集合知を束ねる力に変化しています。

実際、受験的な学力のある程度の部分は外部記憶を駆使して、あるいはAIやPCを活用すれば補完できます。

そうした観点からみると、関心や意欲を合否の判断に入れるのは妥当でしょう。しかも、大学内での成績と従来型の入試学力の相関性は低いという事実の前では、従来型入試のみを強行するのは無理筋でしょう。

従来型の学力に意味はないのか

では、従来型の学力に意味がないのかというと、そうではありません。

現時点での大学入試自体は、従来型学力の階層構造のもとに入試難度が決定しています。そして、推薦や総合型選抜はその一般入試の枠組の中に入り込むことで学力の最低ラインを担保しています。

難関大学と呼ばれる大学の推薦や総合選抜には、大学で学ぶ前提条件となるレベルの学力が極端に低い生徒がほとんど受験しないのはこのためです。

実際、アメリカのように推薦や総合型選抜がメインの大学であってもSATやACTといった日本で言うところの共通テストのスコアと面接やマッチングで合否が決まります。

そのため、最低限のスコア取得は必須となりますし、それが当該大学で授業を成立させるための最低条件となるという重要な意味を持っています。

このまま推薦や総合型選抜は増加してよいのか

この点が私は気がかりです。

今後数年に渡って推薦や総合型の割合は増え続けるでしょう。現在は一般入試との整合性がある程度取れているため問題は起こっていません。

しかし、さらにその比率が増え続けたとき、基礎学力が不足して大学の授業についていけない層が入学をしてしまうケースが発生するでしょう。

そのときに対応するためにも、大学は卒業するのが普通であるという日本の価値観を変えていく必要があると思います。

アメリカでは大学を中退する人の割合が1割を超えています。また、4年間のストレートで卒業することもそれほど当たり前のことでありません。

推薦や総合型選抜が大幅にその割合が増えたとき、どのようにして学生の質を保つのか、難しい舵取りを迫られるのではないでしょうか。


従来型の学力からの移行は決して悪いものではないと考えます。

ただ、その改革には高校や大学だけでなく、社会全体の意識を変える必要がありそうです…



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