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「AI研究者に2000万円支給」は若者のニーズとマッチしているのか?
研究者引き止めの秘策?
文部科学省は2024年度から、AI開発トップ人材の経済支援の一環として、若手研究者に年2000万円、大学院生に年600万円を支給する制度を設けることを発表しました。
この金額は果たして妥当なのでしょうか、あるいは実際に研究者たちのニーズに沿っているのでしょうか。
海外のAIエンジニアの年収
国内の企業の場合、年収800万円程度が、海外の場合は10万ドル程度という記事を見かけました。
これがどの程度の正確性かは不明ですが、海外のAIエンジニアに関してはForbesの2018年の調査ということです。
現在の円安レートでは1500万円以上の可能性もあるようですので、ここから見ると国内の研究者で2000万円は破格の待遇と言えます。
雇用流動化の進まない日本における単年度の収入は価値が低い
海外(特にアメリカ)の場合、雇用市場が流動化しており転職をすることが前提で報酬が出ています。
そのため雇用契約における単年度の収入金額が非常に重要になります。
一方で日本はそれほど雇用が流動化していません。
この2000万円をもらった研究者が解雇されたり、契約期間が満了となった場合、次に同じような収入で雇用される場所を探すのが難しいケースが少なくないということです。
そのため、2000万円は破格に見える一方で、その金額は額面ほどには魅力がないのも事実です。
若手理系学生の声
職業柄、卒業生の理系学生や大学院生の話を聞くことがありますが、彼らの多くはそこまで高い収入を求めてはいない、ということです。
もちろん、一般的な国民の平均からすれば彼らの口にする金額は十分に高い部類に入るのですが、数千万を夢見ている人は少ないようです。
それよりも、そこそこの収入でじっくりと研究に取り組みたい、生活の不安が無い形で研究職を選べるのが理想だ、と語る人たちが多いようです。
当然ながら若者の中にも上昇志向が強く、高収入を求める人材もいるのでしょうが、日本の研究職はそうした性格の人間が進むケースがそれほど多くない印象です。
事実、高校で進路指導をする際も収入や所得に興味関心が深い生徒は経済系を主に志望し、コンサルや外資を目標にするという旨を口にしています。
安定した研究環境の充実こそ重要
現在の国立大学の教官は助教や准教授は任期制となっているようです。
その間にそれなりの成果を上げなければ任期切れとなり雇止めとなってしまうということです。
このようの流動化は、短期的な売り上げを競う業種においては一定の効果があるのかもしれませんが、ある程度長期間で取り組む研究職に導入しても思ったような効果は上がらないでしょう。
むしろマイナスの効果もあるという見解もあります。
2019年には、早稲田大学の清水洋教授が半導体レーザー業界の調査に基づき、『人材の流動性が高まるとスピンアウトが増え、イノベーションが育たなくなり技術開発の水準が低くなる』ことを指摘しています。
2000万円よりもむしろ、安定して800万円という待遇の方がよほど魅力的であり、なおかつ研究成果も上がりやすいのではないでしょうか。
大学院生の場合も600万円というニンジンをぶら下げるのではなく、学費の免除、生活費として月額20万円程度支給であれば十分に研究を続けることが可能でしょう。
アメリカ式の年俸制の高い金額は一見魅力的に見えます。
しかし、日本の実態や国民性、志向、そして研究職志望者の性格的にマッチしていないように感じるのです。