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【題未定】僕の青春は「資さんうどん」ではなく、「ウエスト」でもなく、「黒田藩」の「辛子高菜うどん」なんだ。【エッセイ】
「資さんうどん」が九州内のニュースにおいて話題になっている。九州内ではそれなりの知名度を誇るうどんチェーンである「資さんうどん」がすかいらーくグループの傘下に入るというのだ。すかいらーくと言えばガストなどで有名な国内大手の外食チェーンである。これまで九州内を中心に拡大してきた「資さんうどん」は西日本、大阪までしか進出しておらず、今後、東日本への拡大の可能性は高いだろう。
確かにここ数年、九州内では「資さんうどん」が急拡大をしていた。どうもその頃から外資系の投資会社に買収を受けたらしい。そこから業績向上の拡大路線に走り、今回のすかいらーくHDは240億円で買収に至ったという。目論見は達成されたということなのだろう。
こうしたニュースを見た日本中の人達は「資さんうどん」は九州においてみんなから愛される郷土の味なのだろう、と考えるのではないだろうか。しかし実際にはそうではない。確かに九州においてはうどんは郷土に根差した食事の一つだ。豚骨ラーメンよりもむしろ生活に密着した存在であろう。逆に言えば複数のうどん店がしのぎを削る乱戦状態でもあるのだ。熊本に生まれ育った身からすると、「資さんうどん」はあくまでも最近拡大している新興勢力に過ぎず、馴染み深いというわけではないのだ。
博多系うどんで馴染みがあるといえば「ウエスト」である。福岡県内は言うまでもなく、熊本を含む九州各地にかなり前から出店している老舗チェーンだ。子供の頃は外食に連れて行ってもらえる半分ぐらいは「ウエスト」であった。そのため味自体は悪くないのだが、子供心の「外食なのにうどん」という期待外れ感を未だに思い出してしまう欠点を個人的に抱える店でもある。
では逆に思い出補正でプラスの効果があるうどん店はどこかというと、それは「黒田藩」だ。ここ最近は店舗数も減少し、福岡に1店舗、熊本に2店舗を残すのみという。「黒田藩」を運営する昭和食品工業は「小麦冶」という名前で複数の店舗を抱えており、現在はこちらのブランドの方が多いようだ。(福岡の人にとっては「博多ラーメンはかたや」の方が有名かもしれない)
「黒田藩」の私の思い出は大学時代に遡る。それはもう四半世紀も前の事だ。大学1年の秋に私はアルバイトで塾講師を始めた。塾のバイトは時間外労働(当然無報酬)も多く、バイト講師でも終業時刻が23時以降というのは当たり前の世界だ。
そのバイト先で塾講師のいろはを叩きこんでくれた先輩がいた。彼は仕事に関してもそうだが、夜遊びを教えてくれた先輩でもあった。とはいっても似たようなオタク系の人間であり、夜の店に通い詰めるというわけではない。夜中にゲームセンターやビリヤードに興じるといった具合の遊び方だ。
仕事終わりに連れ立ってゲームセンターへ繰り出すのだが、いかんせん空腹である。仕事中に軽食を口にしていることもあるが、10代、20代の若者の胃袋を満たすものではない。必然、食事をしてから出る、ということになる。とはいえ学生の身分、懐具合に余裕があるわけではない。なるべく安く済ませたいとなると行く場所は限られてくる。そんな中で頻繁に通ったのが「黒田藩」だ。
自分で稼いだお金で食事代を払うというのは、大人になったことを実感する瞬間かもしれない。そしてうどんを待つ間に交わした会話、仕事のアドバイスや大学のこと、将来について。そうした様々な思いが詰まったのが私にとっての「黒田藩」なのだ。
「黒田藩」で毎週のように食べていた、むせるほどに辛い「辛子高菜うどん」。あの味は今でも忘れられない思い出の味なのだ。HPを見る限りでは「黒田藩」の「辛子高菜うどん」は今でも370円で提供(2023年10月時点の価格表)しているという。すべての店舗が無くなる前に、食べに行かなければならないだろう。
もはや「黒田藩」は店舗数から見ても九州のメジャーなうどん業界からは一線を退いた存在かもしれない。しかし、いやだからこそ言っておきたい。
僕の青春は「資さん」ではなく、「ウエスト」でもなく、「黒田藩」の「辛子高菜うどん」なんだ。