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高校数学と「小4ビハインド」

私の勤務校では、数学の授業を習熟度別に実施しています。

4クラス、4コースで実施しており、一番上のコースは難関国立大学や医学科志望者、一番下のコースは私立文系の数学を入試で使わない(使えない)レベルまで大きな学力差があります。

学年によって担当するコースは様々なため、当然一番下のコースを担当する年もあります。

そこで授業していて感じるのは、一番下のコースの生徒の多くが一回の授業における理解度はそこまで低くない、ということです。

しかし、実際の定期試験や模擬試験の結果は惨憺たる有様です。

さて、どうしてそれほどの学力差が生まれるのでしょうか。

学習習慣の差

当然ながら、一番下のコースの生徒は学習習慣が全くと言っていいほど定着していません。

そのため、授業中にやったことを次回の授業で忘れているという状況が多々発生します。必然的に次回の授業の理解が怪しくなります。

さらに、高校数学では自分で手を動かして解くというプロセスは必須です。

学習習慣の定着していない下位コースの生徒たちはこのプロセスを飛ばしてしてしまい学力は向上しないことになります。

では、なぜ学習習慣が定着しないのでしょうか。環境面での問題ももちろんあるのですが、実は数学、むしろそれ以前の算数に問題を抱えているからです。

小学校高学年の算数は難しい

小学5、6年生の算数は非常に難しいです。内容としては複雑な分数計算や速さ、比の計算など複雑な思考が入ってきます。

そのため、学力が低い生徒がつまずきやすい部分が多く、中高生の学力下位層の大半はここでつまずいたという自覚を持っています。

実際、ここの部分の確認テストをしてみると、できていないことが多く、小学校低、中学年の内容と比較して極端に点差が出るため、多くの補習塾でここから復習を入ることが多いようです。

しかし、実はここに大きな見落としがあります。

では「なぜ小学5年生からできなくなったのか」ということなのです。

「小4ビハインド」

その原因は小学4年生までに学習した内容の定着です。

基礎的な四則演算や分数小数が小学4年生までの算数には含まれています。

そして、中高の学力下位層はこの4年生までの計算問題を、「100%の精度」で解くことができないのです。

基本的に中高での中位層以上の生徒は小学4年生までの問題はほぼ完璧に解くことができます。

いわゆるケアレスミスを除いては間違うことはありません。実際には時間さえあればケアレスミスもほぼ発生しません。

一方、下位層はこの範囲を70~90%の精度で解けるようです。この範囲の問題だけのテストを見ると、大体できているということになります。したがって、指摘をしたり確認をし直すと思い違いに気づけます。
(最下位層は全く解けない状況ですが、それは別問題です)

しかし、この10~20%の精度こそが大きな問題になります。なぜならば、新しい単元に入った場合、これらの計算はできる前提で話が進みます。授業でもテキストでもいちいち計算の確認はしません。

ですから、下位層の生徒はそのたびに確実な答えを得ることなく先に進むことになります。今の単元で理解できていても、途中の計算でのつまずきで解答が違うということが増え、自分の理解できている範囲がどこまでかわからなくなり、せっかくわかっていた部分も不確かになります。

また、自学しても答えが違う状態が多々発生し、時間がかかるため効率が落ちてやる気の低下にもつながるでしょう。

このようなつまずきを「小4ビハインド」というようです。

私もこの言葉は知らなかったのですが、最近作られた造語のようです。それ以前にも「小4の壁」といった用語はありましたが、それに近いニュアンスのようです。

難しい再学習

さらに、中高での補習や補講を行う場合にも問題が発生します。

小学4年生より以前まで戻って学習をすることに対する生徒や保護者の抵抗感が強いことです。

本人からしてみれば、15、6歳になって小学校低学年の学習を再度やるというのは相当に自尊心が傷つけられるはずでしょう。

また、保護者からしてもそのあたりは大体できていて、高学年の範囲からわかっていないのだから、高学年の分野を復習すべきだという要望は強いようです。

しかし、繰り返しになりますが「大体できる」、ではなく「100%できる」でなければ足場がぐらついて上に積みあがることはないのです。

数学が苦手な人は確認をすべき

ですから、数学を中高でつまずいている人はもう一度小学4年生までの算数を確実に解けるか確認してみるとよいでしょう。

もし、「100%の精度」で解けないのであればそこを100%にすることが遠回りのようで、もっとも早い近道になるかもしれません。


小学4年生までの計算の「100%の精度」が高校数学の基本的な理解の最低条件ならば、小学5、6年生の教科書内容の「100%の精度」が難関大学進学の最低条件のように感じています…

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