大学無償化制度や奨学金が抱える、成人なのに「親の収入」が条件になるという謎


奨学金と無償化制度

大学進学に際して学生支援機構の奨学金を利用する人は少なくありません。

高校在学中に予約奨学生制度を利用して申し込む生徒も多いようです。
(この業務が高校の教員に振られることは問題ですが)

かくいう私も学生支援機構(当時は日本育英会)の奨学金を利用していました。

また、大学の学費を納付することが難しい家庭の生徒ならば大学無償化制度の対象となります。

こちらも高校在学中に手続きとなるケースがあります。

これらの制度は家庭の収入が高くない生徒を救う仕組みとなっており、その存在自体は非常にありがたいものです。

実際にこの制度のおかげで大学に通うことができた卒業生は私が知っているだけでも何人もいます。

しかし、これらの制度について疑問を抱くことがあります。

それは支給や制度の利用に際して親(世帯主)の収入が必要だということです。

成人年齢の引き下げ

そう感じる理由の最も大きなものは、成人年齢の引き下げです。

以前は高校生、そして大学生1,2年生は未成年として扱われていました。

そのことは「保護者」が存在するとイコールであり、当然ながら保護者の収入によって支援の受給額が決まる、というのは納得できる部分もあったのです。

ところが2022年より成人年齢が引き下げられ、18歳が成人年齢となりました。

これにより、高校3年生は卒業までに必ず成人し、大学に進学する生徒はすべて成人(飛び級例外は存在)であるということになります。

成人であり、一人暮らしでもある大学生の学費や奨学金の基準が親の収入に依存するという条件はやや論理性を欠けるように感じます。

世帯分離による思考実験

こうした問いかけに対して実収入が無い学生は世帯を分けているとは言えない、という主張があります。

例えば親の扶養から子供を抜き、世帯を分離したと仮定します。

学生は収入が無いか、あるいはアルバイトで年間40万円ほどと仮定した場合、住民税は非課税になります。

また親から贈与を年間110万円まで受けることも可能です。この金額は収入にはならないため、住民税などを考える必要はありません。

こうすれば理論上は住民膳非課税世帯の世帯主が大学へ進学するという体裁が整うということになります。

ところが、そうした裏道は当然ながら塞いでいるようです。

日本学生支援機構の奨学金制度における生計維持者とは、学生・生徒の学費や生活費を負担する人を指し、原則として父母がこれに当たります

独立行政法人 日本学生支援機構
生計維持者について

結局のところ制度の抜け穴(極端に収入の低い配偶者と世帯を分け、子供をそちらの扶養扱いとする、などの裏技は存在します)以外は無償化は有名無実と化しています。

これでは大学に通わせることができる家庭の負担は大きいままでしかないことになります。

原則無償化or学生一人世帯の学費軽減

2022年の成人年齢引き下げによって、大学生は原則成人となっています。

にも関わらず、こうした諸制度は未成年であることを前提としたままです。

さらに言えば、そもそも大学生は18歳だけが通う場所ではなく、私のような中年やもっと年齢の上の老人がいつでも通うことができる場所のはずです。

しかし、残念ながら現在の大学を取り巻く諸環境はそうした人たちが排除され、高校卒業すぐの若者が通う場所であることが前提として最適化されすぎているように感じます。実際、大学無償化の対象が高卒2年目までに限られていることからも明らかです。

そしてそれは若者への経済的負担となるだけでなく、それ以外の層の学び直しのハードルともなっています。

大学へ通うというハードルは可能な限り減らすべきです。また保護者からの資金援助は難しいが大学へ通いたい層は確実に存在します。

そうした層を救うための広い制度、高等教育の原則無償化や学生一人世帯の学費軽減措置などが充実が求められているように感じます。

何よりも、支援制度や奨学金の支給が、成人している一人の大人である学生本人の資質ややる気、進学意識ではなく、親の収入という別個の人間の要因で評価される制度が許されるのか、もっと議論が必要なのではないでしょうか。

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