『朝が来る』 -辻村深月- を読んで
あらすじ
特別養子縁組をテーマにした感動的な物語。
長年の不妊治療の末に子供を授かることができなかった栗原清和・佐都子夫婦は、民間団体の「ベビーバトン」を通じて生まれたばかりの男の子を養子に迎え、朝斗と名づけました。
家族は幸せな日常を過ごし、朝斗も幼稚園に通うまでに成長します。
しかし、ある日突然「子どもを返してほしい」という一本の電話が夫妻のもとに届きました。
それは、朝斗を産んだ実の母親を名乗る女性からの衝撃的な要求でした。
この電話をきっかけに、栗原夫妻とその周囲の人々の過去や秘密が次第に明かされていきます。
感想
『朝が来る』は、母親という存在、家族の意味、そして親子の絆を深く考えさせられる作品でした。
栗原夫婦の長年の不妊治療や、養子縁組に至るまでの葛藤は非常にリアルで、彼らの心の痛みや喜びが丁寧に描かれていました。
特に佐都子の不妊治療を諦める瞬間や、若くして子供を手放さざるを得なかったひかりの心情は、胸を強く揺さぶられました。
物語は、養子を迎える側と、生まれた子どもを手放す側、双方の視点が緻密に描かれており、それぞれが抱える複雑な感情に深く共感できる構成でした。
不妊に苦しむ夫婦の切実な思いと、望まない妊娠を経験したひかりの葛藤が交差し、どちらの視点にも「正解」がないことが痛感されました。
しかし、それでも朝斗を中心に新しい家族が築かれていく様子には、希望が感じられ、タイトル通り「朝が来る」ような前向きなメッセージが込められています。
また、作中では性教育のタブーや社会の無理解、家族の形の多様性など、現代社会が抱える問題も浮き彫りにされています。
特別養子縁組というテーマに触れることで、家族を作るということの多様な在り方について考えさせられると同時に、非常に心温まる結末へと読者を導いてくれます。
どんな人におすすめか
心に残るヒューマンドラマを求めている方には、この作品は強く響くでしょう。
人生の難題に直面しながらも、愛と希望を見つけ出す物語に触れたい方には必読の一冊になるのではないでしょうか。
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