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『水を縫う』-寺地はるな


『水を縫う』-寺地はるな-

あらすじ

松岡清澄という高校一年生の少年が主人公で、彼は、幼い頃に両親が離婚し、祖母と母、市役所に勤める母、そして結婚を控えた姉・水青との四人暮らしをしています。

手芸が大好きな清澄は、学校でその趣味をからかわれ、周囲から浮いた存在に。

しかし、姉のためにウェディングドレスを手作りすると宣言します。清澄の母は、息子が「普通」とは異なる道を進むことに不安を抱きながらも、子育てにおいて「失敗する権利」を大切にして、家族の形を見守っています。

この物語は、性別や家族の役割に対するステレオタイプを超え、各々が自分の道を模索し成長する姿を描いた、温かく清々しい家族小説です。

感想

この作品は、家族一人ひとりが自分に合わない「世間の普通」と向き合いながら、それぞれの生き方を模索していく姿が描かれています。刺繍が好きな清澄、華やかな場が苦手な姉の水青、堅実でしっかり者の母、そして天才肌で少し風変わりな父など、多様なキャラクターが登場します。

それぞれの章ごとに異なる視点から家族の物語が紡がれていく形式は、深く共感できる場面が多く、心に刺さる言葉も多いです。

特に、清澄が姉のためにウェディングドレスを作ろうと決心する場面は、性別や役割にとらわれない家族愛を象徴しています。また、「流れる水は淀まない」という意味を持つ清澄の名前の由来が、美しいメタファーとして全編を貫いており、彼の成長を温かく見守る家族の姿が丁寧に描かれています。

一方で、家族の葛藤も描かれており、例えば姉の水青が負った心の傷や、母親が息子を守りたい一心で厳しく接してしまう場面など、痛々しくもリアルな人間関係が浮き彫りにされます。しかし、どの登場人物もその痛みを抱えながら前向きに生きようとする姿が印象的で、そして黒田さんという父親代わりの存在が加わることで、家族の絆がより一層深まっていきます。

どんな人におすすめか

『水を縫う』は、性別や家族の役割に対する固定観念に疑問を感じたことがある人や、家族との関係に悩んでいる人におすすめです。また、周囲からの期待や「普通」とされる価値観に縛られず、自分らしい道を模索している方にも、心に響くメッセージが多く詰まっています。手芸をテーマにしているため、ものづくりやクリエイティブな活動に関心がある読者も楽しめるでしょう。何気ない日常の中にある深い愛情と、家族のかたちが多様であることを再確認させてくれる感動的な作品です。

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