『アヒルと鴨コインロッカー』-伊坂幸太郎-
【あらすじ】
大学進学を機に新しいアパートに引っ越した「僕」が、長身の青年・河崎と出会い、いきなり「書店を襲わないか」という奇妙な誘いを受けるところから物語が始まります。その標的は、なぜか一冊の広辞苑。主人公が巻き込まれる事件と、過去に起こった出来事が複雑に絡み合い、最後には予想外の結末が待ち受けています。
【感想】
物語は、現在と2年前の出来事が交錯する形で進行し、2つの時間軸が巧みに繋がっていく構成が特徴です。感想にもあるように、物語が進むにつれて、「アヒル」と「鴨」の意味や、タイトルにあるコインロッカーの存在意義が次第に明らかになり、読者はその全貌に驚かされます。伊坂幸太郎さんらしい伏線の張り方と、それが最後に見事に回収される手法は、まさに彼の作品の醍醐味です。
物語の鍵を握るのは、ブータンから来たドルジという外国人キャラクター。彼の存在を通じて、日本と異文化との対比や、死生観の違いが描かれます。ドルジの文化的背景や生死に対する価値観が、主人公たちに大きな影響を与えることで、読者にとっても新しい視点をもたらしてくれます。登場人物たちがそれぞれ抱える過去の傷や罪、そして「良い行い」の重要性が物語全体に深みを与えており、最後まで読み進めるうちに、読者も彼らの感情に共鳴するようになります。
琴美というキャラクターの扱いについては賛否両論がありますが、彼女が物語全体に重要な役割を果たしていることは間違いありません。もし彼女が生きていたら、河崎の運命もまた違ったものになっていたのではないかという意見も、彼女の存在感を際立たせています。
また、2つの物語が次第に交わる展開は、伊坂作品の最大の魅力とも言えます。読者は、過去と現在の断片が少しずつ繋がり、驚きと感動を味わうことができます。特に、クロシバ(黒猫)の存在が琴美や他の登場人物とどのように関連しているのかといった謎が、物語のラストで解かれる瞬間は圧巻です。
【どんな人におすすめか】
『アヒルと鴨コインロッカー』は、複雑に絡み合う物語を楽しみたい読者、ミステリーやサスペンスが好きな方、そして伏線が巧妙に張られた作品を堪能したい方に特におすすめです。また、異文化や死生観に興味がある人、他者との価値観の違いを深く考えたい人にとっても、この作品は多くの示唆を与えてくれるでしょう。伊坂幸太郎さん特有のユーモアとシリアスが絶妙に混じり合ったストーリー展開を、ぜひ楽しんでみてください。
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