『わたしはどうしてあの子じゃないの』 -寺地はるな- を読んで
あらすじ
中学時代に住んでいた閉鎖的な村から逃げだし、街で一人小説を書き続ける日々を送っている三島天。
そんなある日、中学時代の友人であるミナから連絡が来た。彼女は、二人が中学時代に書いた「未来の自分に宛てた手紙」を発見し、30歳になった今、それを一緒に開封しようとの提案をしてきたのです。
天、ミナ、そしてもう一人の友人である由美の三人は、手紙を通して過去と向き合い、それぞれが抱えていた思いや悩みに対峙します。
他人を羨み、悩みながらも、彼女たちは自分の人生に意味を見つけ出していく成長物語です。
感想
『わたしはどうしてあの子じゃないの』というタイトルがまず心に引っかかります。
これは誰もが一度は抱いたことのある感情ではないでしょうか。
自分が他人を羨むように、誰かが自分を羨んでいるかもしれないという不安定な気持ち。その複雑な感情が、本書では巧みに描かれています。
特に、ミナと天の関係性が物語の中心ですが、彼女たちが互いにどこか他人に憧れを持ちながらも、自分自身の人生に苦しんでいる姿は、非常にリアルです。
寺地はるなさんは、こうした嫉妬や比較から生まれる負の感情を巧みに描きながらも、その先にある「自分自身を認めること」へと物語を導いています。
物語の終盤、三人が手紙を読み返し、過去と和解する様子は心に響きます。
特に印象的だったのは、ミナが手紙に本音を隠していた点。結局、彼女が直接的な言葉で本心をぶつけることはありませんが、その姿勢にもまた強さを感じます。
成長は必ずしも言葉で表現するものではなく、内面の変化として描かれていることがこの物語の魅力です。
どんな人におすすめか
この物語は、自分と他人を比べてしまいがちな人にぜひ読んでほしい一冊です。
特に、過去の自分や他人との関係に悩んだことがある人、誰かを羨んでしまう気持ちに苦しんでいる人には、心に響くメッセージが詰まっています。
また、人生の転機や過去の選択に立ち返ることがある人、そして田舎特有の閉塞感や大人になってからの人間関係のもつれに共感できる人にもおすすめです。
この作品は、決して華やかな成長物語ではないものの、静かに心を温めてくれるような感動を与えてくれるでしょう。