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スタートアップで「確率思考の戦略論」を実践してみた話。市場構造を方程式で表してみたら事業成長に貢献するアクションが明確になった。

このnoteは「モバイルアプリマーケティングアドベントカレンダー2021」の21日目の投稿になります。
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自己紹介

株式会社タイミーで執行役員CMOを務めている中川と申します。広告代理店出身で、デジタル領域とマス広告領域の両方を経験した後に、3社の事業会社を経験してきています。
タイミーは、すぐに働けてすぐにお金がもらえるスキマバイトアプリです。


課題|市場構造が見えない

この記事を書くきっかけとなった課題感を最初に書きます。
事業計画があって、毎月・毎年の売上目標はあるのだけど、そこに辿り着くのに、たくさんある数字のうち、どの数字をどこまで上げたらいいのかがよくわからん。。。
ということは特にまだ成長期のスタートアップでは、あるあるの一つではないでしょうか?
もちろんTAM(Total Addressable Market)的なものは見ているとして、しかし実際に売上を作ろうと思うと、たくさんあるKPIっぽい指標のうち、どの要素がKeyで、そのKeyの数字がどうなるとその売上がでるの…?
売上を因数分解できないもどかしさ、が2020年末〜2021年頭くらいの自分にはありました。

そんな中、そこに対する着想を与えてもらったのがかの有名なこちらの本でした↓

以前に一度読んでいたものの、当時ちょうど勉強会に参加する機会に恵まれ、そこで理解を深めることができました。。感謝。。

『確率思考の戦略論』のざっくり紹介

本書の内容については深い解説記事などもあったりするので、詳細はそちらに譲ります。

本書で登場する、負の二項分布(NBDモデル)とは、ざっくり書くと、自社プロダクトがある期間にr回利用される確率、を示してくれるモデルです。

数式見るだけでうげっってなる気持ち、わかるよ。


参考までに自分なりに学習してのまとめもいくつか貼っておきます。

例えば、1ヶ月の間に自社プロダクトをr回使う人の出現確率、を導くことができます。

M(プレファレンス)という、自社が選ばれる確率やマーケットシェア・好意度(簡単にいうと「好み」)が市場構造を決定づけている、というのが本書の主張であるので、この概念の理解が重要です。
式で表すと、M = 自社ブランドを全ての消費者が選択したのべ回数を、消費者の頭数で割ったものです(P.58)

よく式を見ると、MとKがある。KはMによって決まるので、実際に動かせるのはM。
本書の中でも事例として出てくるパンケーキの購入回数。予測と現実がほぼ一致している。
上記のようにNBDモデルが当てはまらないケースも存在します。


タイミーの場合

以下では、具体的な数字は出すことはできませんが、フレームや手順は伝わるように書いてみます。
また、以下の作業はすべてExcelを活用してやっています。

参考記事です↓


さて、タイミーでの自分の課題意識は、前述した通り、「毎月・毎年の売上目標はあるのだけど、そこに辿り着くのに、どの数字をどこまで上げたらいいのかがよくわからん。。。」でした。
もちろんKPIになりうる指標は見えているものの、ロジックで繋がっていない感覚がありました。

これに対する一つの解を、上記を用いる形で構築していきました。手順としては大きく2つのステップに分かれます。

ステップ1:NBDモデルに実績値をあてはめてみる

まず、下記の数字をNBDモデルにあてはめてみました。上の数式見ると複雑そうですが、KはMから決めていくことになるので、実際に用意するのは、Mを計算するための下記2つだけです。

❶母集団:
Mは、自社ブランドを全ての消費者が選択した延べ回数を、市場の消費者の頭数で割ったもの (同書P.58)、なので、母集団は、Mの分母になります。
具体的にはターゲットになりうる人口を使っています。

❷のべ利用人数:
特定期間における、サービスののべ利用人数の実績。Mの分子です。

ここから、1ヶ月の間にr回タイミーを利用するユーザーの出現確率を予測する、というのがNBDモデルでできることです。

丁寧に書いてみると、
P0:1ヶ月の間に0回、タイミーを利用するユーザーの出現確率
P1:1ヶ月の間に1回、タイミーを利用するユーザーの出現確率

P30:1ヶ月の間に30回、タイミーを利用するユーザーの出現確率
みたいな。

この出現確率に母集団(ターゲットとなる人口)を掛け算すると、r回利用するユーザー数の予測値が出ます。

ところで、このモデルに当てはめた上記の数字は過去データでした。なので、利用回数ごとのユーザーの数は実績値もありました。
実際の数字を出すのは難しいので、ダミー数字としていますが、イメージは下記のような結果となりました。

数字はダミーです。

結論、モデルで予測した人数と実績値がほぼ一致していました。(モデルの方がちょっと保守的)

ここまででNBDモデルのあてはまりがそこそこありそう、と判断し、売上を数式モデルで表すのがステップ2です。

ステップ2:売上の方程式を立てる

次に、ステップ1で用いたM(プレファレンス:自社が選ばれる確率)も使いながら、売上の方程式を作っていきます。これによって、売上が因数分解されます。

売上が因数分解されると何が嬉しいのでしょうか?

あとで具体例でも少し見ますが、事業計画の達成のために目指すべき、各要素のマイルストーンKPIが明らかになる点です。どこをレバーにできそうかのあたりがつけられ、戦術への落とし込みが容易になります。

『確率思考の戦略論』も参考に、下記のような売上の方程式を立ててみました。

  • 市場というのはM(プレファレンス)の計算にも使っているターゲットの人口です。

  • 認知とはその名の通りサービスの認知率です。

  • プレファレンスはMのことで、M = 特定期間における、サービスののべ利用人数 / ターゲット人口でした。

  • 単価は1回利用あたりの売上です。

これらを乗ずると売上になります。

わかりにくい場合は上図で補足している通り、利用人数 * 利用人数あたりの売上単価 を示している式と捉えてもらうと理解が進むかもしれません。 

 上記の式ですが、立てた当時にわかっていたのは、

  • 売上実績

  • 市場(ターゲット人口)

  • M(プレファレンス)

  • 単価実績

と、認知率以外の項目でした。なので、逆算的に認知率はこんな感じになるはず、、というのを当てはめておいたのですが、面白いのは、その後実際にパネル調査をしてみるとほぼ一致した数字が出てきたのです…!
いやぁ、恐るべしですね数学マーケティング。

実務上の利用方法

上記のような式ができたことによって、ターゲットとなる売上をつくるためには、認知率・M(プレファレンス)・単価のいずれかを上げていく必要があることが分かります。

個人的に面白いなと思ったのは、特に認知率の目標値が明確に定まる点です。「これくらいの売上をあげるためには、認知率このくらい必要だよね」というのが数式を通じて直接的につながったのは広告の仕事をしていた身としても初めての体験でした。
マーケティングの仕事をしている中で、「認知率が大事なのはそれはそうなんだけど、具体的にその認知度がどの程度売上に寄与しているの?十分なの?足りないの?」といった問いに悩んだことがある方はきっといらっしゃるのではないでしょうか。

ここが決まることによって、戦術レベルでも、認知率をx%まで上げるためにはどうすればよいか、、というところに頭を使えるようになっていけますし、売上を伸ばしたいからこのくらいの認知率が必要、という数字を根拠にした主張もしやすくなります。

ちなみに認知率を獲得する際にテレビCMを検討実施することもあると思います。(タイミーも過去複数回、テレビCMを放映しています。)
初めてテレビCMを実施する際のノウハウは、よろしければ下記記事集もご覧ください📺

以上、『確率思考の戦略論』をスタートアップで実際に使ってみた事例でした。

📓この記事について

株式会社タイミーで執行役員CMOを務めている中川が、マーケティング関連の仕事をしている中で感じたことを綴り、コツコツと学びを積み重ねる『CMO ESSAY』というマガジンの記事の一つです。お時間あるときにご覧いただければ幸いです。オードリーのオールナイトニッポン 📻 で毎週フリートークしているのをリスペクトしている節があり、自分も週次更新をしています。
タイミーは、すぐに働けてすぐにお金がもらえるスキマバイトアプリです。


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