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自分の仕事はクリエイティブだ。 そう気づくことで世界の見え方が変わる 『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』

こんにちは。書籍編集者の古下です。1月22日に出版された原野守弘さんの『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』(クロスメディア・パブリッシング)の企画・編集を担当しました。このnoteではこの本ができるまでを編集者の視点から書き記します。

この本の構想を思いついたのは、今から約10年ほど前に遡る。その当時、私は編集者ではなく、食品メーカーの営業職だった。

「ものづくりがしたい」

そう思っていた私は、商品のコンセプトや販売方針を決めるマーケターになりたい、そのためにまずは営業として現場を知ることが重要だ、と考えていた。

営業の仕事には、達成すべき数字がある。基本的には、経費を抑えつつ、売り上げ、できれば利益を最大化することが主な仕事だ。でも実際にやってみて、営業という仕事は思っていたよりも自由度が高く、クリエイティブな仕事なのかもしれない、と思うようになった。

例えば、季節やイベントに合わせてバイヤーに企画やメニューを提案する。1月だったら節約、3月だったらひなまつり、など。売り場や販促物、自分次第で様々な工夫ができた。長年営業の仕事についている人には当たり前のことなのかもしれない。だが、私には基本的な営業活動でさえ、とてもクリエイティブに見えた。

また、企画だけでなく、人間関係も重要な要素だと気がついた。社内で提案書を共有しあい内勤の効率化をはかったり、商談すらしてくれない気難しいバイヤーに時間を作ってもらうための戦略を練ったり、自分が本部を担当している企業の店舗を回ってくれる社員のモチベーションを上げるにはどうしたらいいかを考えたり……。これらも自分の行動が全てを決める、クリエイティブな営みに見えた。

「営業って意外にクリエイティブな仕事なのかもしれない」

そう思うと、自分のやっていることが本当にクリエイティブに思えてきて、世界が違って見えた。と同時に、もしかして実は他の仕事もそうなのではないか、と思うようになった。開発、研究などの新しいものをうみだす仕事はもちろん、経理の仕事だって、使う会計ソフトを比較検討したり、自分でマクロを組んで自動化したり、書類提出を忘れがちな社員をチェックしておいて事前にリマインドしたり、などなど工夫できる点がありそうだ。一見何か新しいものを生み出していないように見える仕事だって、お給料が発生している時点でクリエイティブな営みのひとつなのではないか? 自分の仕事をクリエイティブだと思っている人とそうでない人が同じ仕事をしたとき、見えている世界が違うのでは? 仕事のクオリティが変わるのでは?

いつか、このことを何かの形にできたら。そう思ったものの、このときは自分の妄想の引き出しにしまっておいた。

しかし、この考えは自分の無意識の中を常に漂っていたようだ。気がつけば「もともとは普通の会社員として働いていたクリエイティブな人」を探している自分がいた。普通のビジネスパーソンとクリエイター、どちらも経験した人ならば、自分が昔思いついた仮説を証明できるのではないか、と考えたのだ。

「森の木琴」を知ったのは、ビジネス書の編集者になり、ニューヨークに移住した頃だった。森の中にひっそりとたたずむ巨大な木琴。その上を転がる木のボール。素朴な音色の連続がバッハを奏でる。Twitterのフィードに流れてきたその映像に釘付けになった。

これをつくったのはどんな人たちなんだろう?
気になってクレジットを調べた。

クリエイティブディレクターは原野守弘さんという方なんだな。
その日はそれで終わりだった。

そして、月日は流れた。

ある日、FacebookのフィードにOK GoのMVが流れてきた。これは日本で撮影されたものらしい。

衝撃だった。なぜ彼らは日本で撮影しようと思ったのか。どんな経緯でこのMVを撮ることになったのか。三浦大知さんやELEVENPLAYさんなどの、シンクロ率の高いダンスが好きだったので、コレオグラファーが誰なのか気になり、調べた(振付稼業air:manさんだった)。ふと、そこでクリエイティブディレクターのところに目が止まる。あれ、この方「森の木琴」の人だ! そう、原野守弘さんだった。

原野さんの頭の中はどうなっているんだろう? 興味があり調べてみた。すると、こんな記事を見つけた。

自らを「筋金入りの原理主義者」だと語る原野は、34歳という比較的遅い年齢でクリエイティブの世界に入ったこともあり、そこに自分の居場所を作るために徹底して広告の原理を追求した。

34歳という比較的遅い年齢でクリエイティブの世界に入ったこともあり

この人だ! と思った。もし私の漠然とした考えを、他の人にもわかりやすく説得力を持って説明してくれる人がいるとしたら、きっとこの人に違いない。

そう確信を持ったものの、私は原野さんにお会いしたこともなければ、コネもない。とりあえずTwitterをフォローしてみた。これまで私は自分で文章を書くことのできる人と本をつくってきた。原野さんがご自分で執筆できる方なのか、この時はまだ分からなかった。

そして、再び月日は流れた。原野さんがクリエイティブをテーマにした海外の本に寄稿し、その日本語版が出たらしい。

早速この本『クリエイティブ・スーパーパワーズ』を手に入れた。前書き部分を読んだとき、原野さんはご自分で文章が書ける方なのだと確信した。しかも、締め切りを守ってくれそうなこともわかった(詳しくは『クリエイティブ・スーパーパワーズ』をご覧ください)。

わ、いよいよこの方しかいない。

だが、思い出してほしい。私は原野さんの知り合いではないし、コネもない。知り合いの知り合いが原野さんを知っている、ということもない。しかも、私がそう思うくらいなのだから、おそらく他の誰かが原野さんの本をつくりたい、と企画しているのではないだろうか。私がわざわざ原野さんの本をつくる特別な理由はない。私はニューヨークに住んでいるし、日本に住んでいる方で、他にもっと適任な方がいるだろう。それでも、実際に提案するかは分からないが、とりあえず企画書だけつくっておこう。

そして、なかなか原野さんに提案する勇気がないまま、月日は流れた。

ある日、Twitterのタイムラインを眺めていると、原野さんがニューヨークに滞在しているらしいことがわかった。もちろんいいねを押す。するとなんと、原野さんからニューヨークのおすすめを私に聞いてきてくださったのである。

その頃、企画・編集したブランディングの本『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』を出版したばかりで、ありがたいことに、原野さんはこの本を知っており、私のことをニューヨークに住んでいる人、と認識してくださっていたようである。

今だ! 今しかない! そう思い、ニューヨークのおすすめを聞かれているというのに全くそれには答えを出すことなく、逆に出版のオファーを出すという暴挙に出た。なんとかお時間をいただけることになった。

正直初めてお会いした日のことはあまり覚えていない。とにかく必死でこの noteの冒頭で書いたような話をした。クリエイティブに携わる人だけでなく、普通のビジネスパーソンがクリエイティブな発想を持って働けるような、そんな本をつくりたい。そんな本を書けるのはビジネスパーソンの気持ちがわかる、34歳からクリエイティブの世界に入った原野さんしかいない、と。

原野さんはおそらく、その話を半信半疑で聞いていたのだと思う。ただ、このようなことを言ってくださった。

「前講演会をしたときに、広告とかクリエイティブとか関係のない業界の人から、その話をうちの会社でもやってくれないか、とオファーをいただいたんですよ。しかも複数の会社から。正直自信がないんだけど、その反応をみてまた考えます」

原野さんは、前向きに返事をしてくれたものの、果たして自分の書くことが普通のビジネスパーソンに受け入れられるのか、確信がなかった。

私の中には、ある法則がある。すごい人ほど自信がない。自信がないというより、より正確に言えば、客観的な視点からものごとを把握できるので慎重になる。私はとにかく待つことにした。

月日は再び流れた。ある日、私のもとに原野さんから連絡がきた。

「古下さんの言っていたことがわかったような気がします」

私は言葉通り両手でばんざいをした。やったー!

この後の話が気になる方は、『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』のはじめに、を読んでいただけたらと思います。

その後、私はヨーロッパに住んでみたい、電子国家とはなんぞや? という理由でエストニアに移住し、編集作業はエストニアからリモートで行いました。Born in NY, Made in Japan and Estonia. 

この本は、今の原野さんが、クリエイティブの世界に飛び込んだばかりの34歳の自分に向けて書いたものです。あの頃原野さん自身が知りたかったことの全てがつまっています。クリエイティブになりたい、と少しでも思ったことのある方や、自分の仕事に限界を感じている人、キャリアチェンジをしたい人など、様々なビジネスパーソンの方に「自分ごと」として感じていただけるような内容になっています。私の仮説は、ビジネスパーソンの皆さんにこの本を読んでいただき、クリエイティビティに目覚めていただくことで証明されます。ぜひ、証人になっていただけたら嬉しいです。

読んでくださった方の感想を一部シェアします!

ありがたいことに、発売後すぐに増刷が決まりました。

本と一緒に楽しんでいただけるWebサイトもつくりましたのでぜひ。

青山ブックセンター本店と梅田蔦屋書店にて原野さんによる選書フェアを開催中です! お散歩がてら、もしよかったら書店まで足を運んでみてください。

(2/22追記)
梅田蔦屋書店では、『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』の原野さんと『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』の小山田さんによる選書フェアを開催中です!

3/19(金)19時より、青山ブックセンター本店にて『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』出版記念イベントが開催されます。『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』の著者、河尻亨一さんと原野さんが「ロールモデルと愛と尊敬。好きから生まれる新しい世界」についてお話します。このイベントまで著者の原野さんによる選書フェアは継続開催されるそうです。60名限定のリアルイベントで、すでに半分ほど埋まってしまっているそうです。気になっている方はお早めに!

2/22 日経新聞の朝刊に『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』の広告が掲載されました。

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末長くよろしくお願いいたします!!

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