小さなサンクチュアリ
「煙草吸っていいかな?」
と言われると断れない非喫煙者なので、遠くから喫煙所を見ながら『祝日天国』を聴いて外で待つ。
あんな小さな部屋に閉じ込められたあの人達は一体どんな悪いことをしたのだろうと可笑しくなる。
けれど、煙を食べて寒空に戻るこの人の、お風呂上がりのような満たされた顔を見ると、あの狭い空間は、増税に屈せず、しかし禁煙には挫折してきた愛煙家たちのサンクチュアリなのだと気づく。
神聖で、願い縋れば救われる小さな空間が在る、なんて単純な幸福だろう。
聖域に守られた人たちの抑え難い幸福の溜息で満たされたあの空間に、ほのかな愛着が湧く。
去年の雪が消える季節、高円寺で好きだった人から少しだけもらった煙の味を忘れられず、素敵なライターを見つけたら、私もあの聖域に駆け込んで救われたいと願っている。
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