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摂氏4度の世界で

青葉の下を歩くと、葉影から漏れる陽光がキラキラと降ってくる。
隙間から見える透き通った空色に見惚れてしまう。

帰り道、我慢できずにアイスの袋を開けるとか、ベランダでスイカに齧り付く時間、
百貨店の屋上で火酒を喉に通す瞬間、
小さな神社にひしめく屋台の光、
目を離したら溶けてしまうような夏の倖せ。
穏やかで惰性的な春とは違う、汗ばむ皮膚に油蝉の鳴き声が纏わりついてうざったいけれど、色鮮やかなこの季節がずっと続いてほしいと思ってしまう。
相変わらず恋人もいなければ、有休をたっぷり取ったのに予定もないけれど。


夜。近所の川沿いを歩いて、買ったばかりの文庫本に煙を挟んで、時間が経ったコーヒー味の水を無理矢理喉に流す。
自恣な時間であるけど、それを許してくれるこの場所は生きやすくて、寧静な摂氏4度の内側の世界だ。

摂氏4度。温度が下がると水はどんどん重くなって、下の方へ移動する。4度から更に冷えると軽くなって上にとどまり、水面から凍結し始める。湖が凍りついても、水中で魚が生きていけるのはこの性質のおかげらしい。魚たちの安息の場所だ。

この心地よい場所に深く深く沈みこんで、私もひとり気ままに泳いでいたい。

燦然

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