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BRIDGE選定チームインタビュー『しずまえアップサイクル 釣りの地域資源化』
静岡市が主催する知・地域共創コンテスト、スタートアップ提案型「BRIDGE」。この取り組みは、地域が抱える多様な社会課題に対し、スタートアップや地域団体が行政と連携し、新たな社会システムの構築を目指すものです。昨年11月に開催された二次審査会では、厳正な審査を経て5つのチームが選定され、それぞれが実証実験フェーズへと進むことになりました。本記事では、選定されたチームの担当者らにインタビューを実施。選定されたビジネスプランの内容やコンテストへの応募背景、実証実験の進捗状況、そして今後の展望についてお話を伺いました。
<共創チーム>
テーマ:「しずまえアップサイクル 釣りの地域資源化」
チーム:株式会社ウミゴー × Marine Sweeper
<プロフィール>
氏名:株式会社ウミゴー 國村 大喜さん、Marine Sweeper 土井 佑太さん
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ーまずはじめに、自己紹介と会社概要についてお聞かせください
國村さん:京都と滋賀で育ち、琵琶湖で釣りの楽しさを知りました。京都大学工学部物理工学科を卒業後、芸術分野での学びを深めるために筑波大学大学院でプロダクトデザインを学び、卒業研究として「手が自由になる松葉杖」を作りました。卒業後は富士通株式会社でデザイナーとして10年勤務しました。その後、養殖関係の会社の役員を経て現在は株式会社ウミゴーで『海釣りGO』というアプリを開発・運営しています。
【海釣りGO!!】https://umigo.co.jp/about
「海釣りGO」は、「海釣りGO」は、漁港の釣り場や駐車場をアプリで予約・利用できるサービスです。釣り人を責任ある利用者として位置づけ、地域との共存や環境保全を促進することを目的としています。アプリを通じて計画的な釣行が可能になり、釣り場の有料化で管理費や環境整備費を賄い、持続可能な運営を実現。また、釣り禁止エリアを減らし、釣り人と地域の共存を目指すプロジェクトも推進しています。
土井さん:静岡県富士市出身で、子供の頃から釣りを楽しんでいました。静岡大学在学中にダイビングを始め、海への愛着を深めつつ海の環境保全に対する意識が高まっていきました。自ら水中に潜り、ごみ収集の活動を始めていく中で、集まった釣具の中にはまだ価値のあるものもあり、再利用方法を模索するようになりました。サラリーマン時代に培ったビジネススキルから編み出されたビジネスモデルが、現在の『Marine Sweeper』です。海洋ゴミから生産されたルアーの製造販売を行い、海中清掃自体も体験コンテンツとしてマネタイズできるシステムを開発しながら、海洋保全活動に取り組んでいます。
【Marine Sweeper】https://marinesweeper.jp/
Marine Sweeper(マリンスイーパー)は、海中清掃活動を行いながら、回収したルアーを再生・販売することで、持続可能な釣り産業の構築を目指しています。主な活動として、ダイビングを通じて海中に放置された釣り具などのゴミを回収する海中清掃活動を行っています。また、回収したルアーを再生し、ネットショップや協力店舗で販売することで、釣り文化の持続可能性にも貢献しています。さらに、ダイビングライセンス保持者向けに海中清掃の体験プログラムを提供し、環境保全への意識を高める取り組みも実施しています。
ー今回、BRIDGE2024に応募しようと思われたきっかけは何ですか?
國村さん:以前から伊豆半島で釣り場のDX管理を進め、漁協の負担を軽減しながら漁港の新たな活用方法を社会実装する実績を作りつつありました。この事業モデルを全国展開できるのではないかと手応えを感じたタイミングで応募しました。土井さんは静岡市に住んでおり、釣り人と漁業者の共存を目指して活動していました。私たちが取り組むことで地上だけでなく水中まで綺麗にし、さらには魚を増やすことを実現したいと考えました。ちょうど静岡市がこの分野のコンペを開催することを知り、私たちのアイデアを試す絶好の機会だと思い応募しました。地上・水中ともに環境を改善し、漁業、観光、釣り業界すべてにとって利益をもたらす未来を作りたかったんです。
土井さん:私はBRIDGE2024以前に別のビジネスプランコンテストで受賞した経験がありました。その流れで静岡市の産業政策に関わる方々から今回のコンペの情報をいただき、國村さんに「応募した方がいいですよ!」と連絡しました。最初はそれぞれ別々に応募を考えたのですが、私一人では応募条件を満たせず、國村さんと協力する形で共同提案をすることになりました。結果として、私たちがやりたかったことを一つのビジョンとして形にできたことは大きな成果だったと思います。
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ー応募に至るまでの課題や期待していたことがあれば教えてください。
國村さん:漁港や共同漁業権水域といった公共施設に関わる事業を進めるには、漁協や自治体との協力が不可欠です。どれだけ優れた提案をしても、最終承認者である彼らの理解と協力なしに社会実装はできません。だからこそ、行政が主体となってこのようなコンペを実施してくれたことで、私たちが公共分野に関与し社会実装する機会が期待できます。西伊豆での釣り場管理の仕組みと、土井さんが取り組んできた水中の課題解決を組み合わせることで、より効果的な社会実装が可能になると考えました。
土井さん:私の水中清掃活動も、法律やステークホルダーとの合意形成が必要な難しい課題を含んでいました。特に海洋ゴミの責任の所在が不明確なため、個人レベルでの活動には限界を感じていました。行政の支援を受けて正式なプロジェクトとして進めることで、より多くの人に賛同を得る機会になると期待しました。
ーご提案いただいたビジネスプランの概要を教えてください。
2人:私たちの提案する事業のコンセプトは、『「藻場再生」そのものをエンターテイメントにする』ことです。日本の海では磯焼けによる漁業資源の枯渇による魚の減少が深刻な課題となっています。その対策として藻場再生に公共投資が進められていますが、多くは税金を使った消極的な対応に留まっています。
そこで、藻場再生を単なる環境保全ではなく、心に残るレジャーとしての体験にすることで、楽しみながら社会貢献できる仕組みを作ろうと考えました。私たちが開発している3つのサービス「ぼくらの藻場」「漁業体験GO」「海あそびGO」は、藻場再生への参加機会の提供、漁業体験とダイビングによる藻場再生体験のサービス化を通じて、持続可能な海洋環境づくりを支援するアプリです。釣り人や観光客が海と関わることで、その活動自体が魚の増加や藻場の拡大につながる仕組みを構築し、日本全国への展開を目指しています。
各アプリの特徴
「ぼくらの藻場」@静岡市内の漁港
誰でも参加でき、アプリを通じて藻場再生企画に関わることが出来る。。単なる寄付とは異なり、藻場再生の成果を観察でき、さらに周辺事業者と連携し周遊チケットとして利用可能。「漁業体験GO」@静岡市内の漁港(シラス漁)
アプリからシラス漁業体験を予約可能。体験費の一部が藻場再生費用に充当され、楽しみながら環境保全に貢献できる。「海あそびGO」@静岡市内の漁港
ダイビングを通じた藻場再生や魚礁・藻礁の設置、観察が可能。ダイビングライセンスがない人でも水中ドローンを使って藻場を探検できる。
遊べば遊ぶほど、海が良くなる。この仕組みで、新たな海洋保全の形を創り出します。
ー静岡市においてどのような地域課題を解決し、地域や経済にどのような変化をもたらしたいと考えていますか?
土井さん:個人的に海に関することで携わった時間が静岡市が一番長く、静岡市の海は最先端な保全活動をする条件が揃っている、尚且つ課題も浮き彫りになっている中で、静岡市は政令指定都市であり、多くの人が訪れる観光地でもあります。そのため、海が過剰に利用され、環境への負担が大きい地域でもあります。しかし逆に言えば、静岡市の海はやりがいのある海であり、ここで成功すればモデルケースとして全国の他の地域にも展開しやすいと考えました。
國村さん:静岡市は東海道の中心に位置し、ここで海と漁港の活用モデルを作ることができれば、日本全国に波及効果をもたらせる可能性があります。漁業、観光、環境保全が一体となったモデルをここで確立することに大きな価値を感じています。
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ー実証実験で得たい成果や、進行中の課題について教えてください。
國村さん:現在、静岡市の漁港や漁協と連携を進めていこうという段階です。1年かけて「ぼくらの藻場」始めとする3つのサービスを社会実装に向けて推進し、漁業体験や海洋レジャーと組み合わせた新たなビジネスモデルを確立したいと考えています。
土井さん:僕らのプロジェクトは長期的に見ている時間軸にはなりますが、3月までには関係者の合意形成を進め、具体的なビジネスモデルを発表する予定です。その後、実際に事業を立ち上げ、継続可能な形で展開していきます。
ー共創事業として取り組む中で得られた学びや印象的なエピソードはありますか?
國村さん:静岡市の方々が行政職員の枠を超え、スタートアップの可能性を信じて支援する姿勢を強く感じました。チャレンジングな社会実装が進む中で、行政の中にも新しい挑戦を支援したいという熱意を持つ人が多くいることを実感しました。本気で社会課題に向き合えば、人は協力できる。それぞれの想いが共鳴し、必要不可欠な魚を増やすという目標への共創が生まれました。
土井さん:静岡市の海洋保全にかける熱量の高さを感じるとともに、行政とスタートアップの枠を超えた「人と人」としての深い関係が築けました。特に印象的だったのは、行政の縦割りを超えた連携が実現したことです。担当者が積極的に関係部署をつないでくれたことで、プロジェクトがスムーズに進みました。
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ーBRIDGE2024で選定された後、事業やチームにおいてどのような変化・進展がありましたか?
國村さん:土井さんとは異なる領域で活動してきましたが、目指す方向は同じであり、具体的なフィールドがない中で、ゼロから共にビジョンを築いてきました。お互いのシナジーを活かしながら、共創を通じて新たな価値を生み出すプロセスを実感しています。
土井さん:それぞれの強みを活かしながら、長年のコミュニケーションを経て、コンペを通じて事業を形にすることができました。お互いのリソースを掛け合わせることで、ゼロから「1+1以上」の成果を生み出し、新たな可能性を切り拓いてきました。
ー次回参加を検討している方々に向けたアドバイスとして、BRIDGEの魅力や、挑戦する際の心構えなどを教えてください。
土井さん:個人事業主の方も諦めず、共創の形を模索すれば応募できる可能性があります。私自身、國村さんと組むことでこの機会を得ることができました。
國村さん:事業は社会実装して初めて意味を持ちます。単なるアイデアではなく、本当に社会を変える覚悟を持った提案をしてほしいですね。行政側も本気で受け止めてくれる環境が整いつつあるので、次回の応募者にもぜひ挑戦してもらいたいです。
今回は、 株式会社ウミゴー 國村 大喜さん、Marine Sweeper 土井 佑太さん にインタビューさせていただきました。インタビューでもご紹介いただいたように、各チームでは実証実験を進めています!3月には、取り組みを報告する成果発表会を予定しています。