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大阪・エンバンクメントコーヒーさん(後編)
大阪・北浜のエンバンクメントコーヒーさん。土佐堀川の堤防をのぞむ二軒長屋。まわりのビルが高すぎて。歴史がしずかに巻きもどるような気がします。
川をみていた午後に。
(2008文字)
エンバンクメントコーヒーさん
中之島バラ園と土佐堀川に背をむけて。大正時代に建った長屋のお店・エンバンクメントコーヒーさんがモダンにほほえむ。
オフ・シーズンの静けさに、あなたは何を……おもうのか。
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EMBANKMENT Coffee
大阪市中央区北浜1-1-23
月~金 11:00~18:00
土日祝 9:00~18:00
もより駅は……
●大阪メトロ(堺筋線)・京阪電車
各線・北浜駅…約3分
このたてもの、北浜長屋・二軒長屋とよばれています。かつては黒い漆喰の外観だったのでしょう。いまは、青みががったモダンなグレー。窓の表情も毎日ちがうのが、うらやましいです。
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大阪の春は、すぐ北の「、中之島バラ園」へ。ビルや高速道路が川面に。それを借景に、さきほこるバラ……なんとも不思議な香りがします。
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2階のいろあい
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1階は……お客さまがいたので、2階にいこう。堤防沿いの席が空いてたらいいな。
エンバンクメントコーヒーさんは、一杯ずつ、スタッフさんが淹れてくださいます。
「お席までお持ちします」
ゆっくりと、木の感触をあじわい階段をのぼる。
チェーン店のカフェだったら、じぶんでコーヒーを受け取り、トレイを持っての移動。なので、こんなことが贅沢におもえます。
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壁ぎわにテーブル席。足裏がよろこぶ、靴ごしの木の床の感触。かるくて、やわらかい。茶色くぽっかりあいたセンター。バレエのレッスンができそうな。
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テーブルとイス。こちらも軽い感触。床が広く見える細身。道路側の窓、南側だ、とても、おおきい。そして開放的。
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天井は、格子のところと、ウロコのようなところが、これが押出しの金属天井。ここは、むかしのまんま残してあるのですね。
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こんなささいな、よろこびや発見。この空間。きょうのコーヒーのお値段650円に納得します。
土佐堀川の堤防ぞいの席は、すでに座った人がいて、残念……。
窓のようすも撮れません。
撮影は、座ったままで。他のお客さまのが写らないように、立ったりしないでマナーよく。
白い壁と窓に目をおとす。ぼんやり、どんより外は、くもり空。晴れの日にまた来ようか……。
きょうは「川をみていた午後」の気分だったけど。
無理かもしれない。
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ブラジルとキャロットケーキ
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スタッフさんが、やってきた。コトリ、コトリと白いうつわ、ふたつ置いて。トレイごとではなくて。コーヒーとキャロットケーキだけを。
そして階段から退場、音はなく。ふわり、コーヒーの香りがきた。
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コーヒーは、スタッフさんオススメの「ブラジル」。キャロットケーキがおいしそうで、まず選択。それから、キャロットケーキにあうコーヒーをたずねました。
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エンバンクメントコーヒーのスタッフさんは、コーヒーやスイーツの説明が丁寧です。ビジネス街の知的さと、中之島バラ園のような庭園のくつろぎ。
コーヒーにもストーリーがあるのですね。ブラジル……白い紙のおはなし。
浅煎りのなかの果実。寒くなるまえに、ひとくち、ふたくち。
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窓ぎわの席・川をみていた午後
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お客さまが1組、降りてゆく。スタッフさんが食器を下げる音がする。
窓ぎわが、ひろがった!
いまのうち、席をかわろう。
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影絵のように直線がはしる。
大正時代、ここから土佐堀川をながめたように。土佐堀川は、大阪から京都へ、旅や商いの船のみちでした。
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土佐堀川をのぞむ2階席。かつての水の都は、どんな景色をしていたのでしょう。
川をながめる。むかしの水は青かったかも、緑だったのかも。陽ざしで光る土佐堀川。
すこしはソーダ水みたいだったかな。
大阪から京都へは、旅も商いも船がはこぶ。電車はあったけど船がすき。天神祭りも船にのる。
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かわいた季節は水墨画のよう。
また船が通る。観光船と巡視船。
派手な船が、泡しぶきをあげる。
さざなみは海よりも、おとなしい。
キャロットケーキを、ひとくち。
キメがこまかい。泡のような、きえそうなクリームととろける。
そして、川をながめるのくりかえし。
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「海をみていた午後」あの名曲。
なぞってみるけれど、
似たところを探すけれど……。
大阪には、山手のドルフィンは、ないのだ。
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ソーダ水より、
「コーヒーのなかを観光船が通る」
そう、とてもとても濃ゆいコーヒーだ。
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ここに紙ナプキンはあるけれど、インクの筆記具は持っていなかった。
書けなかった。
「わすれないで」
川をみていた午後。
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◆読まなくてもだいじょうぶの前編◆
◆川をみていた午後・橋のたもと◆
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いつも こころに うるおいを
水分補給も わすれずに
さいごまでお読みくださり
ありがとうございます。