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この家どうするの?(38)葬儀屋さん今昔14「捜索タンス」

父の年金手帳と通帳は、いずこ。とにかくキレイ好きの父でしたが、孤独死。本人にとって貴重品、わたしにとっては必需品。
(今回も葬儀屋さんは出てきません)
つらくなるかたは、お読みにならないでください。
(1135文字)


洋服ダンス

 2階のどこかにある。確信のうちに探しだせ。押し入れには、なし。たぶん洋ダンスも、和ダンスも。夫婦ではなく独居老人なので衣類はすくない。だが、どこにいれたか忘れるだろうから。


とりあえず、洋服ダンスの引き出しを。
「肌着・靴下と、一軍の服」が少量。人づきあいがないので、同じ服で不都合なし。食料品の買い物だけ外へ出る。


外出は車に乗って。
「ちょっと歩いたり、自転車をこぐのもつらいはず。車の運転で座っているほうがラクだろう」
かなり心臓ポンプが弱っていると、過去のお医者さまの診断。
3回の入院を経たが免許返納には、いたらず。玄関からすぐ車、なのでオシャレも不要だった。

洋タンスの一軍の服は処分。すこし生地が、あるじの心臓のようにくたびれていた。
あと入っていたのは「新品バスタオル」。太く巨大な札束のように重なっていた。おおきく、かさばるバスタオルは使っていなかった。わたしもだけど。


「ふつうサイズのタオル」みな新品だ。粗品やギフトのタグがついている。あとで使えると思い、そのままに。パパッと見ただけ。
洋ダンスの捜索終了。




和ダンス

和ダンスには「祖母・わたしのキモノ」が、ガシッと入っている。
きしむ、たとう紙。たとう紙のなかは、紬や羽織まで。帯じめ・バッグ・七五三まで、いろいろと。


ここにはないだろう。
見なくても。
こもった女子のフトコロには。



樟脳(しょうのう)

なにかが鼻をつく。うすい紙がパラパラころげる。これは衣類の防虫剤の樟脳しょうのうだ。
おもいだすのは、透明や赤のセロファンにつつまれた食べれぬ、おかしのラムネもどき。入れ替えのたびに、眉と鼻をしかめた記憶がよみがえる。

いまは、無臭タイプやフローラルの香りの防虫剤が主流だ。父は……知らなかったわけではあるまい。キツイにおいの樟脳のストックも出てきた。どうして、むかしのにんげんは……。


父は、戦時中に、疎開先でシラミ・虫食いがひどく、みな頭から薬をかけられたと言っていた。
……それで徹底したキレイ好きに。


 ゴミやちり、汚れ、紙くず。とりわけ、わたしのマンガ雑誌は大嫌いで、なんでもかんでも掃いて捨てられた。

キモノは捨てるにしのびず、父は大量の樟脳を散らしていたのだ。
しかたなく。


キモノなんて着ないのに。
親らしいことは、
なにひとつ、してくれなかったのに。



   (不謹慎ながら続きます)

毎週金曜日は
「親の持ち家」の日

いつも こころに うるおいを
水分補給も わすれずに

さいごまでお読みくださり
ありがとうございます。

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