あなたの言葉と行動が何より大事- What you say and What you do with it matters most
こんにちは、『二代目ベスト青田ニスト』志水です。普段はFunleashという会社でいろんな業種・形態の企業、さまざまな組織に対して変革ファシリテーターとして外部支援を行っています。自己紹介はこちらにあります。ちなみに事業と組織を創るリーダー育成塾、ファンリーシュアカデミアの学長もやっています。HRアドベントカレンダー2020「○△に大切な□×」の折り返し地点となった本日担当いたします。
いつも連載や文章を書く際には、アカデミックな理論やエビデンス、先行事例がないと不安・罪悪感にさいなまれてしまい(大学院時代のときに追い込まれたマスタートラウマなのかも)実はエッセイ的なものを書いたことがありません。
ここまで人事界の若手ホープが素晴らしいお話を披露されているので、今回は逆張りでいきます。いつもと違い、あえて教科書的な内容、制度・仕組み、フレームワークなどではなく、徒然草のように思いつくまま書いてみます。
パーソナルな内容を書くことは秘密を共有するようでドキドキですが、せっかくいただいた機会なのでチャレンジしてみます。街はクリスマス一色ということもあり、情緒的なところがあるかもしれませんが、お許しください。
「○△に大切な□✕」というテーマで浮かんだこと
25年も人事・経営の世界に身を置いていると色んなことがあります。(今回のメンバーで人事経験の長さおよび転職回数の多さは一番かもw?)事業の立ち上げ・拡大・閉鎖などの経営・事業戦略の実行は当然のこと、経営者に去ってもらう、超大規模なリストラなどー組織と人に関わる、ありとあらゆることをやってきました。
何千人もの社員を抱える企業で人事責任者をやっていると海外ドラマのように日々ネタがつきません。地震・台風などの災害、テロ、誘拐、家出、失踪、自己破産、交通事故、不倫、窃盗、ドラッグ、病気、ハラスメントなど数々のシーンに遭遇しました。そんな波乱万丈の人事人生を送ってきた私が、今回のお題をいただいたときに真っ先に思い浮かんだこととは?たくさんのエピソードの中から印象に残ったストーリーをお話しします。
Story Vol.1: Do the Right Thing(正しいことをする)
20XX年夏。新米人事マネージャーとして入社した会社はまだ規模が小さく、会議室に本社の社員が全員おさまるくらいのサイズだった。会社としての制度や仕組み、システムもほとんど整っておらず、いわばスタートアップのような状況。毎日が楽しく、でも怒涛のような忙しさだった。ある日、早朝に出社すると支店長から一本の電話が入った。
「おはようございます。朝からすみません。大至急、相談したいことがあるんです」電話をとると20代の支店長が慌てた様子で話し始めた。アルバイトがNo Show(連絡なく突然、現れないこと)かな、もしくはスタッフかお客様からクレームが来たのかな、そんなことをぼんやり考えていた。
「実はアルバイト社員のA子さんが殺人を犯したというのです。私もいま聞いて大変驚いています。警察に連絡した方がいいでしょうか?それとも辞めさせて帰宅させましょうか?」想定外の相談に一瞬、絶句して言葉がでなかった。
支店長には私が来るまで待つこと、誰にも話さないことを強く念押しし、支店のある場所に急ぎ向かった。弁護士にもアドバイスをもらっておいた。
上司である支店長と、アルバイトのA子さん、私たち3人は誰もいないカフェに入り、人目のつかない奥のコーナー席に座った。
「何があったのか聞かせてもらえますか?あなたを守るためにできる限りのことをやってみるから」声をかけてもA子さんは目の前にあるコーヒーを黙って見つめたままだ。注文したパンケーキが運ばれ、その場の重い空気をこわすために「ここのすごく美味しいんだよね」と私が食べ始めると、少し落ち着いたのか、彼女はようやく重い口を開いた。
「昨年父が亡くなった後、家族を養うために兄は大学を中退して飲食店で働きはじめました。最初は楽しそうでしたが、職場で上司から嫌がらせされたりして、時々泥酔して帰るようになりました。そのうち酔って帰っては母に暴力をふるうようになったのです。ここ数週間、そんな状況が続いてました。今朝も明け方に帰宅して母を起こし、暴力をふるいはじめました。私にも。何とか兄を止めようと、母と私と弟で布団をかけて押さえつけたんです。しばらくすると兄は静かになりました。でも息をしていないことに気づいたんです」そこまでいっきに話すと、彼女は嗚咽をもらして泣き出した。
「裁判の結果がどうであれ、ここがあなたの場所(ホーム)だからいつでも帰ってきてほしい。今までどおりあなたが働けるように、チームには家庭の事情でお休みしているとだけ伝えるね。チーム、そしてあなたにとって正しいことをします」私は答えた。一切迷いはなかった。上司である支店長も私の言葉に大きく頷いた。
その後、三人で警察署に向かった。誰も何も話さなかった。「皆で待っているからね」と上司が声をかけた。中に入ろうとする彼女に大きなハグをすると、彼女は小さく会釈をして一歩踏み出した。その姿を二人でだまって見つめていた。
しばらくしてから、彼女は職場に戻ってきた。様子を見に行くと、彼女は以前にもましていきいきと働いていた。本当に楽しそうだった。胸が熱くなった。
その後、彼女は昇進して数年間そこで勤務した後、現在は某企業で管理職を務めている。笑顔にあふれる子供との幸せそうな写真、仕事で活躍している様子などをSNSで見ると、あの時の彼女の背中を思い出す。人事の仕事って素敵だなと思う。
Story Vol.2: Do more than what you do (仕事以上のことをする)
20XX年秋。抱えていたプロジェクトがようやく終わり、久しぶりにゆっくり過ごしていた。
22時ごろ、ヨーロッパと米国から一斉にメールが入り出したのでスマホを見た。するとあるリーダーから一本のメールが入った。彼にしては珍しいな、こんな時間に何だろう?
「実は夕方から激しい腹痛に襲われ、そのまま病院に運ばれました。壊死している腸の一部を取り除きました。すぐに治療が必要だそうです。今後について相談したいので来週どこかで会えますか?」なんとなく胸騒ぎがした。
翌週、彼の上司と私は、待ち合わせの時間に少し遅れて、表参道のカフェに入った。グレーのフーディ、白いストレートデニム、そしてニットキャップ。彼はいつものように笑顔で手を振りながら、こっちこっちと合図をした。思ったより元気そうだ。
頭の中が真っ白になった。その時の会話がよく思い出せない、それくらいショックだった。
「なぜこんなことが起こるのか」そればかり考えていた。
「チームには病名は伝えず、あなたが戻ってくることだけ伝えるね。仕事のことは何の心配もいらないから。できることがあれば何でもいってね」そんなことを伝えたと思う。じゃあ、またねと握手をしてお店をあとにした。
帰りの電車で頭に最初に浮かんだのは、チームメンバーに何を伝え、何を伝えないのか?こんなとき、どんなメッセージを出すのが一番良いのだろうか?次に考えたのは、ビジネスをどうやって継続させるのか。業績を落とすことはできない。圧倒的なリーダーシップでチームを率いてきた彼が不在の中、コンティンジェンシープランを至急考えなくてはいけない。そして・・・もしかしたら、彼は二度と戻れないかもしれない。サクセッションプラン(後任計画)を実行する準備もしておかなくてはならない。
初めて出会ったとき彼は20歳だった。ドレッドパーマでボトムスを腰まで下げていた。自信家で生意気だったけれど、相手が社長であろうが自分の意見をしっかり述べるリーダー。メンバーの強みを見つけて伸ばすことが得意だった。どんなチームも彼の手にかかると好業績チームに変化した。数年後には国内で最大旗艦店のトップをまかされるほど彼は成長していた。史上最年少だった。それからトントンと昇進を重ね、6千人近くのパートタイマー社員からNo2のポジションまで登り詰めた。
皆んなの目標であり、いつか彼がトップになるはず、誰もがそう思っていた。私もそれを願っていた。
いろんな思い出がいっきに駆け巡った。
新規ビジネス立ち上げのリーダーとして海外に派遣したこと、降格した上司に腹を立て退職届を出した彼を説得するために駅まで追いかけたこと、業績が悪く問題だらけの地方の店に赴任してもらったこと(予想通り、短期間で見事に立て直した)心配で出張しては見に行ったこと。ビジネスやチームに問題がおきたときには、一番に相談してくれたこと。ビジネスが順調なときも苦戦していたときも、いつも一緒に切り抜けてきた。組織の大事なリーダーであり、戦友のような存在だった。
休職してから、彼は病院から毎週短いメールをくれた。私との約束だ。どんなことでもいいからメールして、話したかったら夜中でも電話してと伝えていた。
抗がん剤治療、副作用で爪や皮膚が全部剥がれてしまったこと、腫瘍が縮小して奇跡的に手術が可能になったこと、感動した本やささいな日常の出来事、復帰したらやりたいこと、そしてチームのこと。週末に届くメールで「彼は生きている」と安心した。
そんなメールがあるとき届いた。実はそのころ、次のキャリアにむけて会社から離れようと考えていた。見抜かれているようだった。
「わかった。戻ってくるまでちゃんと待っているから、安心して」そう返信した。その後、メールが途絶えてしまった。サクセッションプランを実行に移していたものの、組織に何かが欠けている感は否めかった。誰も彼の病気については触れず、その復帰を待った。
翌年の夏、彼からメールが来た。しばらくメールが来なくて心配していた私は歓喜し、そして落胆した。
「手術後、合併症が起こって臥せていました。ずっと連絡できず、すみません。自分の言葉で皆さんに伝えたいことがあるので、近いうちにチームを集めてもらえないでしょうか」そんな内容だった。直属のチームだけはなく、これまで彼と仕事をしたことがある仲間を、できる限りたくさん集めた。
リーダー会議でいつもそうだったように、彼は全員の前に堂々と立ち、力強い声で話し始めた。
これまで病名を明かさなかったことを丁重に謝罪し、2年間の闘病生活を振り返った。
自分が不在中のチームのリーダーシップに感動した、達成した成果を聞きとても勇気づけられた、心からみんなに感謝している。チーム全員をとても誇りに思うと功績を称えた。そして、最後に言葉を選びながら、会社から離れることを伝えた。
あちこちから、すすり泣く声が聞こえた。
スピーチをそう締めくくった。元気だった頃、障害をかかえる子供たちに茅ケ崎でサーフィンを教えていたことを知った。今後は、病気の子供たちに対して新たな活動を始めるという。涙がとまらなかった。
その年の12月、彼は静かに旅立った。40歳だった。
やりきったような穏やかな顔をして。ご家族から手渡された封筒には手紙と思い出をつづったDVDが入っていた。
それから3年後の2020年12月、勇気を出して封筒をあけてみた。
彼は最後まで自分のリーダーシップを貫いた。育成していたつもりだったけれど、本物のリーダーシップを教わったのは、むしろ私のほうだった。彼の紡いだストーリーをみんなに伝えたいと思った。
最後に
人事の仕事に正解はありません。自分の頭で考え、心で感じ、自ら行動する。自分が正しいと思うことを愚直にやり続ける。道を誤ったときには謙虚な姿勢で真摯に謝罪する。リーダーや社員から信頼を勝ち取る方法はこれしかありません。
一方で、経営者が「正しくないこと」をしたときには身体をはって対峙しなくてはなりません。信頼されない人事がどんな武器をつかっても優れた組織や文化を創ることはできません。制度や仕組み、メソッドは必要ですが、そのうちコモディティ化してしまいます。
例えば25年前に私が導入した人事のERPシステムや今話題のジョブ型は、その時には価値があったけれども、今ではゴミです。ドラッカーが指摘するように、あらゆるものは出来上がった途端、あっという間に陳腐化してしまいます。今ほど変化が激しい時代には、陳腐化のスピードは格段に速まっています。
では不変なもの、本当に大事なものとはなんでしょうか。私は自分自身の軸だと思っています。判断に迷ったとき、決断をくださなくてはいけないとき、拠り所となる内なる声、内なる価値観ともいえるものです。これがあれば迷ったとき、不安になったとき、どんなに逡巡しても最終的には自分で決断できます。
私の場合は「真善美」を体現したいと心がけています。真善美というと、古くて時代遅れだと思われるかもしれませんが、私なりにカスタマイズして目指しています。
真(Truth)とは:嘘偽りのない真のこと。偽物ではないこと⇒(志水流)常に自分らしくありのままでいること。自分の内なる声にしたがっているか?
善(Virtue)とは:美徳。道徳的に正しく、正しい道であること⇒(志水流)正しいことをする。社会に良い変化をもたらす組織を創り、一人でも多くの人が上質で豊かな人生をおくれるよう、最善を尽くしているか?
美(Beauty):視覚的なものにとどまらない美しいさま⇒(志水流)教養を身につけること。真と善を調和させ、カッコよく生きているか?(格好がいいとは異なります。「カッコいい」の定義を知りたい方はこちらを)
そして私にとって何より大事なのは、言葉と行動を一致させる(What you say and What you do with it matters most)ことです。
自分の言葉と行動が自分のありかたを決めるからです。あなたの言葉とあなたの行動が組織と文化を創ります。それを忘れたくないなと思います。
つたない文章に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。このような機会をくださったLINEの青田さんに心から感謝します。2021年、皆さんにとって素晴らしい1年になりますように!