お母さん

わたしの知っているお母さんは
美味しいご飯を作ってくれる
おやつにはパンケーキを
夜食にはおにぎりを
運動会にはおいなりさん
遠足の日はサンドイッチ
誕生日には大きなケーキを
クリスマスはご馳走を

いいな
いいな

わたしの知っているお母さんは
いつも心配してばかり
ハンカチ持った
ティシュも持って
喉が痛いの
風邪ひいたの
いっぱい食べて
あったかくして
大丈夫
大丈夫

いいな
いいな

わたしの知っているお母さんは
いつもいい匂い
絵本を読んでくれる
歌を歌ってくれる
一緒にぬり絵をしてくれる
お花の名前を教えてくれる

いいな
いいな

わたしの知っているお母さんは
あの子のお母さん
テレビの中のお母さん
本に出てくるお母さん
怒ったり
泣いたり
笑ったり
喜んだり

いいな
いいな

わたしの知っているお母さんは
今は誰かのお母さん

今も誰かのお母さん

いいな
いいな

いいな

わたしが大人になって

大人なって
あなたを産んで
はじめてのおっぱいをあげて
初乳は赤ちゃんの成長にとても大事だと聞いて
ちゃんとあげられたのか心配になって
しわしわのあなたがこの世に生まれて
生まれて間もないあなたがおっぱいを探して
わたしもあなたもはじめてだから
一生懸命集中して、おっぱいに集中して
がんばれがんばれって無我夢中になって
言葉にならない幸福に包まれて、安堵して



わたしの知っているお母さん達は
母親になってわかったでしょ
あなたもそうだったのよ
とっても可愛いがられていたのよ
愛されていたのよ

そんなこと、わかる人にしかわからない
どうして、どうして
そう言えるの？
目の前のこんなに愛しい小さな命を
置き去りになんかできない、
余計にわからない、
大人になったらわかるでしょ？
母親になったらわかるでしょ？
わたしにはできない
置き去りになんかしない
大人になったらわかるでしょ？
母親になったらわかるでしょ？
わからない
言えない
そんなこと

わたしの知っているお母さんを
わたしが知っているお母さんを
ぷつりと消した

いいな　いいなを
丸ごと潰した

わたしはお母さん

お腹空いてないかな
寒くないかな
暑くないかな

小さな寝息に安堵したい
まぁるいおでこを撫でていたい
優しくお腹をぽんぽんしていたい
柔らかな寝顔をずっとみていたい
わたしを見て笑ったあなたを
ずっとみていたい
抱きしめたい
わたしの指をぎゅっとにぎった小さな手を
守りたい
離さない

言葉にならない湧き上がるもの

わたしはお母さん

それは自然に湧き上がるもの

わたしはお母さん

今はあなたのお母さん



強く湧き上がるもの