八月の印象。
八月は夕方のイメージだ。
日が傾いて、長くなった影がくっきりと舗道に伸びている。
それは、子どもの頃の夏休みに
毎年行っていた高知の祖父母の家での思い出だ。
毎日、夕方になると祖父は私と妹を連れて近所の公園に出かけた。
私たちのお気に入りはブランコだった。
祖父はちょっと気難しげなところがある人だったけれど、
私たちがブランコをこぐたびに変顔をしてみせたりもして
その時はとても楽しかった。
私にとっての八月は、その行き帰りの道のイメージなのだ。
祖父は、私が中学生のときに亡くなった。
元気だった人が衰えていくこと、もう二度と会えなくなること、
もう何も話せないこと、肉体が灰になること、
そういう喪失をはじめて実感した時だった。
祖父が亡くなったのは夏ではなかったけれど、
公園のほかにも、桂浜の暑さだとか
毎年一度は遠出をして行った50mプールのひんやりした深さだとか
夜、網戸から入ってくる風の心地よさだとか
祖父との思い出はほとんどが夏の出来事で、
くっきりとした光と影のイメージで、
思い出すと今でもとても淋しくなる。
だから、八月はなんとなく悲しい月だ。
その八月に「うた絵巻」をするなら
やっぱりテーマは死者を想う八月になるだろう。
お盆には亡くなった人たちが帰ってくる。
伝えきれなかった想いを抱えた生者への救いかもしれない。
というわけで
8月20日(火)は道頓堀並木座にて
「千静のうた絵巻 vol.4-いまひとたびの」。
もう一度、もう一度だけでいいから逢いたい人。
お盆には、その願いが叶うかもしれない。
上田秋成『浅茅が宿』と久生十蘭『生霊』をベースに
盆唄をまじえながらお届けします。
開場:14時 開演:14時半
会場:道頓堀ミュージアム並木座
入場料:2,000円
出演:松浪千静(唄・三絃)
お申込み:こちらのフォームからお申し込みください