その十八 (ザシキワラシのこと)
ザシキワラシは、娘の姿でも現れる。
先ほどの話(その十七)と同じ山口という所に住んでいた山口孫左衛門の家は、古くからある家だったが、そこには「娘の姿をした二人の神様が棲んでいる」と、昔から村に言い伝えられてきた。
ある年。
同じ村にいる男が、用事があって出かけた町から帰る途中、村では見かけない二人の娘と行き違った。
それは、留場(とめば)という、川から水を引く場所でのことであった。
水の上をかかる橋の上を、二人ならんで歩いていた。
姿かたちは綺麗であったが、その表情は曇りがかっていた。
男は、お前たちはどこから来たのだ、と問いかけた。
すると、山口の孫左衛門の所から来たのだ、と二人同時に答えた。
では、これからどこへ行くのだ、とさらに問うと、
どこそこの村の何とかという家だ、とやはり二つの声で答えた。
その、何とかという家は山口からやや離れた村にあり、今でも立派に暮らしている大きな農家である。
男は、もはや孫左衛門の家も長くはあるまい、と思った。
それからしばらくして孫左衛門の家は、キノコの毒に中(あた)って、主と使用人合わせて二十数人、一日のうちに死んでしまった。
たった一人七歳の女の子が生き残った。
が、子を生むことも無く老いてゆき、つい最近、病いで死んだとのことである。