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その二十 (没落前の不吉な予兆)

この凶々しい出来事の前には、実は数々の前触れがあった。

あるとき、男たちが馬や牛に食わせるための馬草を、あらかじめ積み置かれた中から引き出そうと、三ツ歯の鍬(くわ)で掻き回していた。

すると、馬草の下から一匹の大きな蛇が出て来た。

殺すな、と主の孫左衛門が云った。
だが、男たちは打ち殺してしまった。
すると。

殺した蛇のまわりの馬草の中から、おびただしい数の蛇たちが出て来た。
うねうねと、うごめきながら出て来た。
男たちは、面白半分にこれらも悉く打ち殺した。

さて。
殺したのはいいが、捨てる場所が無い。
そこで、屋敷の外に穴を掘ってこれらを埋め、「蛇塚」と名を付けた。

そのとき、蛇の死骸を簣(あじか)と云う、縄で編んだザルで運んだが、何杯運んだのか分からぬほどの死骸の量であった、と云う。

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