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朗読のための古典怪談

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江戸・明治時代の古典怪談を、朗読用に現代語訳して書いたテキストです。どうぞお楽しみ下さい。
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2023年7月の記事一覧

首遊び『幕末明治百物語』

首遊び『幕末明治百物語』

(原題「第三席」朗読目安時間 6:20)

これは嘉永年間にあったというお話。

上州赤城山の麓の村に、ある百姓の家がありました。
かつてはかなり栄えた家でしたが、そのころには家運も傾いておりました。
大きな屋敷も、ところどころ雨漏がするという有様でした。

この家に、お由(よし)という一人娘がいました。
このあたりの土地には似つかわしくない美しい娘でした。
加えて、縫い針仕事も読み書きも並ではな

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牡丹灯籠

牡丹灯籠

江戸の世の時の話である。
季節は夏。
人々がお盆の支度に追われる頃。
この時期になると人々は、仏壇を飾り灯りを付け、軒下には灯篭を吊るす。
そうして、亡くなった先祖や親しい人の霊を、あの世から迎えるのである。

根津の清水谷に住む、萩原新三郎もその一人だった。
それは彼に恋して死んだ娘の為だった。
二人は、たった一度しか会っていなかった。
新三郎は長屋を人に貸して生計を立てていたが、あるとき知人の

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安珍と清姫『雨月物語』

安珍と清姫『雨月物語』

今は、むかし。
平安の世の時の話。
紀伊の国熊野に向かって旅している、二人の僧がいた。
ひとりは年老いた僧。
もうひとりは、若い少年のような僧であった。
すれちがった人々はみな振り返って、彼の後ろ姿を見送った。
涼やかな、切れ長の目元。
女のように細く整った鼻。
咲きかけた蕾のように薄く開いた唇。
少年の名は、安珍と云った。

牟呂(むろ)という所まで来た二人は、ある家に一夜の宿を求めた。
そこの

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