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朗読のための古典怪談

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江戸・明治時代の古典怪談を、朗読用に現代語訳して書いたテキストです。どうぞお楽しみ下さい。
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2023年5月の記事一覧

人相占い奇談

人相占い奇談

根岸鎮衛「耳嚢」より
(原題:相学奇談の事)

ある人が、わたしに語ってくれた。
「浅草の町屋に、人相を見て占う人が居る。
私も友人も見て貰ったが、いやはや。
先々のことを悉く言い当てるのだ。
まったく、大したものだ」

これは、その人相見の男にまつわる話である。

麹町の辺りに若い男がいた。
この男は、とある裕福な商家で働いていた。
幼い頃からこの店に召使として入り、今は手代である。
手代とは、

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十本の指「耳嚢」より

十本の指「耳嚢」より

原題:怨念無しと極め難きこと 
(怨念がこの世にないとは言えない)

苗字は忘れたが、佐助、という者がいる。
高松の松平家に勤めている男で、かつては湯島にある聖堂で儒学を学んでいた。
この男の、若い頃の話である。
深川へ儒学の講義へゆき、その帰り道。
すでに夕暮れ時で、日も沈もうとしていたので
「我が家はまだまだ先だからな」と言って、仲町の方へ足を向けた。
仲町は富岡八幡の南にあった遊郭である。

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