#16ショートショートらしきもの「映画」
「なんか飲む?コーヒーでいい?」
「ありがと。いやー。あんなにリアルで重たい映画だと思わなかったよ。おれ結構グサっときたなー。とくに倦怠期の部分とか。」
「ちょっとそれ彼女の前で言う?私は倦怠期なんて無いと思ってますけど。」
「ごめんごめん。別にそういうことじゃなくてさ。もっとキラキラした恋愛映画だと思ってたから。」
「私は原作知ってたから驚かなかったけど。言ったでしょ?カップルで一緒に観ない方がいいかもよって。」
「まさかこういう話とは思わないじゃん。なんとなく最後にどっちか死んで悲し〜って感じかなって。そしたらカップルの離れていく描写が忠実すぎてさぁ。まあ、最後は津田雅史が死んだから、一応、予想は当たってたけどね。」
「まあね。映像にすると2人の心の距離はよりリアルで、ドキッとしたなー。神山明日美は最後泣き過ぎでしょとは思ったけどね。」
「そう?別れ際だったけど、付き合ってた彼氏が死んだんだよ?あれくらい泣くんじゃない?」
「いやいや。途中浮気されてたでしょ?浮気されてたのに泣けるかな?」
「でも2人で話合って乗り越えてたじゃん。」
「あれは彼女が折れただけでしょ。なんか試練みたいに言ってるけど、浮気したやつが全部悪いからね!?」
「それは分かってるけど、まだ付き合ってたんだしさ。好きって気持ちもあったから泣いてたんでしょ。」
「その気持ちまだあったのかな?私は浮気された瞬間から気持ち切れて、泣けなかったけどね。」
「おれは泣いたけどね。」
「ちがうちがう。私は元彼が亡くなった時は泣けなかったってこと。」
「え?自分の話?前にそういうことあったってこと?」
「あれ?言ってなかったっけ?私の元彼亡くなってるの。」
「え!そうなの?てか元彼の話とか今初めて聞いた。」
「だから言ったじゃん。この映画は一緒に観ない方がいいって。」
「そういうことだったのかー。いや、でもちょっと気になる。聞いてもいい?」
「最初の彼は、高校二年生の時に、一個上の先輩でね、すごい憧れの人だったの。付き合って半年くらいした時かな。みんなで行ったスキー場で事故に合って、崖から転落しちゃったの。」
「そんな若い時にあったんだ。」
「ああ。これは最初の話だから。転落した時は驚いたんだけど、彼は一緒に行ってる別の女の子と浮気してて、怒りが勝ってたからなのか、不思議と涙が出なかったの。次は大学二年の時かな。」
「元彼亡くなってるのって二回もあったの?」
「二回じゃないよ。三回。二回目は、それもカップル3組でキャンプ行った時かな。夜中にキャンプ場抜け出しててね、事故に遭っちゃって、居眠り運転だったの。ガソリンが漏れて車ごと燃えちゃって。でもその彼も浮気しててね、一緒に行ってた別のカップルの女の子と車に乗ってたの。亡くなった悲しさよりも、車で何してたのかな?とか思ったらやっぱり涙が出なくてさ。」
「あ。もういいよ。昔のこととかさ、辛いだろうし。無理に話さなくても。あれ?コーヒー違う種類に変えたでしょ。おれ前の方が好きだな。」
「別に辛くないよ。これっぽっちも悲しくないし。三回目は就職して一年目かな。その彼はお風呂で寝ちゃって、溺れて亡くなったの。その彼も亡くなる直前まで別の女と家にいたからさ、悲しいよりも怒りが勝って泣くに泣けなかったの。」
「す、すごいこと経験してるね。」
「そういえばさ、映画中にLINE来てた夏菜子って誰?すぐ返信してたみたいだけど、そんなに大事なの?」
「いや別にられってわへやないけろ。へ?ろういうころ?」
「無理に話さなくてもいいよ。全部分かってるから。」
「まっれ、ろうしへ・・・」
「ね。一緒に観る映画じゃないって言ったでしょ。」
〜おわり〜
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