#11 ショートショートらしきもの「女神」
「あれ?タケルこのノートなに?」
「あ!それダメ!」
「いいもん見つけちゃった〜。彼女に隠し事はいけませんよ〜。」
「ダメだって。」
「どれどれ、『今日ぼくは素敵な人と出会った。講義に遅れて入ってきた彼女をひと目みた瞬間に、ぼくのものにしたいと思った。』なにこれ小説?」
「いや、そういう事じゃ無いんだけどさ。恥ずかしいからもうやめてよ。」
「いいじゃん。ちょっと読ませてよ。」
『綺麗な黒髪をもつぼくの女神は、その場にいるだけで周りの人達を明るくする。どうしても女神に近づきたいぼくは、同じサークルの顔の広い友達に女神について調べて貰った。女神の名前はサクラ。』
「なになに?この女神って、私のこと?」
「本当に恥ずかしいからやめてよ。」
「ふ〜ん。自分の彼女のこと女神だと思ってるんだ〜。」
「もう。やめてよー。」
「まあ。悪い気はしないけどね。女神って言われて。」
『ついに女神と付き合うことになった。付き合ってからの彼女は、予想を良い意味で裏切ってきた。美しく落ち着いた外見とは裏腹に、かなりおっちょこちょいなのだ。ぼくはますます女神を好きになり、愛することができた。』
「なんか自分のことが書かれてると思うと恥ずかしいね。」
「目の前で読まれてるぼくの方が何倍も恥ずかしいと思うけど。」
「ねぇ。これ最後どうなるの?」
「うーん。まだ最後まで書いてないけど、あとちょっとで書き終わるよ。」
『ぼくは女神の亡骸を抱えあげて一筋の涙を流した。』
「え?私死んでんだけど。やめてよー。縁起悪い。どうせ小説書くならハッピーエンドにしてよね。」
「ぼくも本当はそうしたいんだけど、なかなか現実はハッピーエンドとはいかないからね。しかもそれ小説じゃないし。」
「どういうこと?」
「前のページ戻ってみてよ。」
『今日は女神の誕生日。ずっと行きたいと行っていたテーマパークのチケットを渡した。』
『今日は大衆居酒屋で女神と2人でお酒を飲んだ。こういうお店もいいよねと2人で話した。』
「これって先月の私の誕生日と、先週のデートのことだよね?」
「そうだよ。ページの右下見てみ。」
「9月16日。これページ数じゃなくて日付が書いてある。」
「そう。それは小説なんかじゃないんだよ。今まで起きたことが書いてある日記。正確には、これから起きることが書いてあって、その通りに生活する未来日記。」
「え?なにそれ。訳わかんない。」
「最後のページ。」
「9月22日。これ今日の日付じゃん。女神の亡骸?どういうこと?」
「ぼくは悲しいよ。こんな結末になっちゃうなんて。ぼくはこんなにも君を愛していたのに。」
「なにそれ。なに言ってんの?」
「先週の金曜日、見ちゃったんだ。君がぼくに見せたことない綺麗な服を着て、笑顔で知らない男とホテルに入って行くところ。」
「違う!それはなにかの誤解だって!」
「いいんだ。誤解でも。そもそも最初からこうしておけば良かったんだよ。ぼくの女神。ぼくだけの女神でいてもらうためにはね。」
「ちょっとまって!謝るから!なんでもするから!タケル!私・・・・・・・」
『ぼくは女神の亡骸を抱えて一筋の涙を流した。今までで一番綺麗な真っ赤なドレスを着せてあげることができた。これで一生ぼくだけの女神だよ。』
〜おわり〜
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