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#1800字小説『カモフラージュ』/書く時間【#シロクマ文芸部】/#monogataryお題「余白」
◆小牧幸助(シロクマ文芸部・部長)さんの
「書く時間」から始まる小説・詩歌を書く企画に参加します。
なおかつ
◆#monogatary 2023年7月28日のお題「余白」も活かして
創作しました。
※詳細は本文後に記載
#1800字小説 、5分程度で読了可能な超短編小説ですので、
ぜひご一読ください。
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『カモフラージュ』
「書く時間がないの」
苦し紛れの言い訳だということは、自分が一番わかっている。
その気がないだけ。いや、その気はあるんだよ、いつも。
だって、他のことに集中して取り組んでいても、何をしている時も、「〇月✕日までに提出の書類があるので書かなければいけない」ということが頭の中にこびりついて離れない。だったら早く終わらせ、懸念事項を取り除いてスッキリ過ごせばいいのに……できない。
「やらなきゃ、やらなきゃ」と追い立てられるような焦燥感が常にあるし、だんだん「やれ、やれ」と誰かに責められているように感じるまで追い詰められる。なのに……ギリギリまで手を出せない。
いざ「書くぞ」と意を決して気合を入れても、書き損じのオンパレードで、必要な添付書類の不備に今さら気づく。
書類をもらったその日に用意しなければならない物を把握していたつもり。一通り書面を読んで、内容も頭に入れた。なんなら、大半の人が見ずに書き始める【記入例】さえ目を通したはずなのに……見ていたようで、見えていなかった。
そんなことの繰り返し。自分で自分に疲れてしまうことが多い。
ふと、「大人の発達障害」の言葉が頭にちらついた。
よくネットで出現する簡素的な〇✕診断テストをしてみたら、軒並み〇がつく。
スマホ画面上のADHDという平面テキストが、【記入例】の余白に手書きしたことにより、立体感を持って私の内に入ってきた。
びっくりよりも、がっかりよりも、「やっぱり」という感想がしっくりきた。
夫と対面に着席した食卓で話題に出してみた。相談という深刻さを感じさせないように、何気ない風を装って。
「私っておっちょこちょいでしょ。大人の発達障害のセルフチェックしてみたら、案の定ADHDに該当してたわ」
「あぁ、最近急にクローズアップされてるよな。新聞でも読んだ」
「私達が子どもの頃は、知的障がいの有無くらいで、『発達障害』という概念自体がなかったものね」
「なんか……ほとんどの場合、考えすぎな気がするけどな」
「……そうだよね」
「人間それぞれ、得手不得手を抱えて生きているだろ。それを障害なんて大袈裟じゃないかな」
余白を感じさせない夫の答え。全く悪気がないことはわかっている。
私を否定しているわけではないことも……。
「ちょっと情報過多な世の中に踊らされちゃったかな」
私はわざと明るい声を出した。
いつものように、夫の言うことを素直に受け止め、物分かりのいい妻のふりをした。
子どもの頃から「自分は人とはどこか違う」と思いながら生きてきた。だけど、それを知られないように演技してきた。
実際、小学生の頃から周りの人達には「しっかり者」と評価されていた。先生や級友からの推薦で、学級委員長、部活動の部長、生徒会役員……自分に自信がない私に過分な大役がまわってきた。
ケアレスミスする癖は自覚していたから、時間をかけてこっそり何度もやり直すことで他人には気づかれにくかったし、とにかく頑張ることで自分のダメさをカバーしてきたつもり。でも、無理なものはやはり無理で、自分のダメさに情けなくなることもしょっちゅうだった。
カモフラージュして生きてきたのだから、理解されなくて当然。理解を求めるのならば、きちんと向き合って、わかってもらうまで話をすればいい。だいたいはっきりさせたければ、何か月待ってでも予約をとって、病院で診断してもらえばいい。
だけど、きっと私には、その全てができない。
夫の言葉は、いつも……私の芯を捕らえることなく、上滑りしていく。
出発時点から「理解し合おう」とは程遠い場所を、時間軸をぐるぐる回り続けているように感じる。まるでずっと赤にも黒にも落ちないルーレットの白い玉みたいに。
私は黒い溝で、彼が落ちてくるのを待ち続けている。いや、いっそ赤に落ちればいいと傍観しているのかもしれない。
だけど、彼は彼で、独自のルールにのっとって、敢えてどちらにも落ちないように回り続けている。
……そんな感じ。
「書く時間がないの」
私はまた後回しにしている。
大事な書類であればあるほど、なかなか手を出せないから。
頭の中で「やらなきゃ、やらなきゃ」と常に思ってはいるけど、「〇月✕日までに提出」という期限がないことを言い訳にしている。書き始めれば数分で終わることを……今回ばかりは、わざと先延ばしにしている。
市役所に取りに行った緑の紙を、書き損じることをどこかで望んでいるのかもしれない。
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#シロクマ文芸部 /7/27発表・7/30〆切のお題
「書く時間」から始まり、なおかつ
#monogatary 2023年7月28日のお題「余白」で創作した
超短編小説(1800字小説)でした。
文字数:1800字(空白・改行を除く文字数)
◆小牧幸助(シロクマ文芸部・部長)さんの企画に
参加させていただきました!
詳細は、下の記事をご覧ください。↓
◆monogatary.com 2023年7月28日のお題「余白」で創作した物語としても
当該サイトに投稿しました。
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《#monogataryお題を説明コーナー》
私の投稿した「#monogataryお題」とタイトルに含まれる関連記事を読んだ
経験がある方にはおなじみだと思いますので、スキップしてくださいね。
monogatary.com さんでは毎日12時にお題が発表されます。
私はそのお題をテーマに、またはそこから着想を得て
創作し、投稿しています。
※毎回背景・フォントなども物語に合わせて選択しています。
↓ 想田翠 の投稿ページもよければご覧になってみてください。
※Twitterのアカウント 想田翠/140字小説・短編小説 @shitatamerusoda
でも #monogatary ○月○日のお題「○○○」と明記の上投稿しています。
お題は時節に沿ったものやイベントごとにちなんだものもありますが
予測不可能で、monogatary.com のページを開いて初めてわかります。
お題にからめて140字小説などを創作しているので
基本的に1話完結なのですが、自主的にテーマを設定したり
連作としてしたためる場合もあります。
他にも #140字小説 や #超短編小説 、#超ショートショートなども
投稿しているので、お時間がある時はぜひお読みください。
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想田翠/140字小説・短編小説 @shitatamerusoda
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